広津桃子

広津桃子：作家、随筆家としての生涯

広津桃子（1918年3月21日 - 1988年11月24日）は、昭和期の日本の作家、随筆家であり、文豪・広津和郎の娘として知られています。彼女の生涯は、父との関係、戦後の生活、そして独自の文学世界を築き上げていく過程で彩られています。

生い立ちと家族

広津桃子は、父・広津和郎と母・神山ふくの間に生まれました。両親は彼女が生まれて間もなく別居し、桃子は母のもとで育ちます。母の実家である神山家は、幕末には御家人から町人となり、祖父の代には薪炭商を営んでいましたが、後に永田町で下宿屋を始めました。このような家庭環境が、彼女の感受性を育んだと言えるでしょう。

戦後の生活と父との関係

日本女子大学国文科を卒業後、桃子は叔母が経営する下宿屋「西山寮」で母と暮らしながら、女学校で教鞭を執っていました。しかし、1945年の空襲で西山寮が焼失。戦後は、父・和郎の秘書役を務めながら、同人雑誌に作品を発表し、作家としての道を歩み始めます。1962年には、父が「真実の妻」と呼んだ女性を見送り、1968年には父の死に直面。その直後に発表した『波の音』は、父との和解を描いた作品として、彼女の文筆活動を本格化させるきっかけとなりました。

作家としての開花

1972年、桃子は身辺の人々への思い出を綴った『春の音』で田村俊子賞を受賞。1981年には、網野菊の生涯を描いた『石蕗の花』で女流文学賞を受賞するなど、作家としての地位を確立しました。彼女の作品は、家族や身近な人々との関係、そして自身の内面を深く掘り下げたものが多く、読者の心に深く響きます。

晩年と遺産

1979年に母と死別してからは一人暮らしとなりましたが、晩年は難病に苦しみ、呼吸不全で亡くなりました。彼女の死後、広津家三代の文学資料は神奈川近代文学館に寄贈され、その文学的遺産は今も大切に保存されています。

広津桃子は、父・広津和郎という偉大な作家の娘として生まれましたが、その影に隠れることなく、独自の文学世界を築き上げました。彼女の作品は、家族や人間関係の複雑さ、そして人生の機微を繊細に描き出しており、今も多くの読者に愛されています。

著書

『春の音』 講談社 1972年
『父 広津和郎』 毎日新聞社 1973年、中公文庫 1979年
『石蕗の花　網野菊さんと私』 講談社 1981年、講談社文芸文庫 1994年
『鎌倉花模様』 有隣堂 1982年

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