田村俊子賞

田村俊子賞

田村俊子賞は、小説家・田村俊子の没後、その印税を基金として創設された文学賞です。女性作家による優れた作品を顕彰することを目的とし、「田村俊子会」によって運営されました。1961年から1977年までの17回で終了しています。

設立の背景

田村俊子は、明治から大正にかけて活躍した女性作家であり、その作品は、女性の心理や社会における葛藤を鋭く描いたことで知られています。彼女の死後、その功績を称え、後進の女性作家を励ますために、この賞が設けられました。

特徴

この賞の大きな特徴は、選考委員に、田村俊子と親交の深かった人々が名を連ねていたことです。例えば、田村俊子の友人であった湯浅芳子が中心となって設立に尽力し、佐多稲子も選考委員を務めました。佐多稲子は、田村俊子に夫を奪われた過去がありましたが、そうした個人的な感情を超えて、文学作品の評価に真摯に向き合ったと言われています。この選考の様子は、瀬戸内寂聴の小説『孤高の人』にも詳しく描かれています。

授賞式は、毎年4月16日、田村俊子の命日に、彼女の墓がある北鎌倉の東慶寺で行われました。

受賞作品

第1回（1961年）：瀬戸内晴美『田村俊子』
第2回（1962年）：森茉莉『恋人たちの森』
第3回（1963年）：倉橋由美子 - 業績に対して
第4回（1964年）：竹西寛子『往還の記』
第5回（1965年）：阿部光子「遅い目覚めながらも」「神学校一年生」 / 秋元松代『常陸坊海尊』
第6回（1966年）：萩原葉子『天上の花　三好達治・抄』
第7回（1967年）：中村きい子『女と刀』
第8回（1968年）：松田解子『おりん口伝』 / 吉行理恵『夢のなかで』
第9回（1969年）：福田須磨子『われなお生きてあり』
第10回（1970年）：三枝和子『処刑が行われている』 / 松原一枝『お前よ美しくあれと声がする』
第11回（1971年）：江夏美好『下々の女』 / 本多房子 - 婦人民主新聞記者としての活動に対して
第12回（1972年）：広津桃子『春の音』 / 江刺昭子『草饐―評伝・大田洋子』 / 石垣りん『石垣りん詩集』
第13回（1973年）：高橋たか子『空の果てまで』
第14回（1974年）：富岡多恵子『植物祭』
第15回（1975年）：吉野せい『洟をたらした神』 / 島尾ミホ『海辺の生と死』
第16回（1976年）：津島佑子『葎の母』 / 一の瀬綾『黄の花』
第17回（1977年）：木々康子『蒼龍の系譜』 / 武田百合子『富士日記』

選考委員

湯浅芳子
佐多稲子
高見順（-1965）
草野心平
立野信之（-1971）
武田泰淳（-1976）
瀬戸内晴美


田村俊子賞は、短期間で幕を閉じましたが、その間に多くの優れた女性作家の作品を世に送り出し、日本の文学史に確かな足跡を残しました。この賞を通じて、田村俊子の精神は、次世代の作家たちに受け継がれていったと言えるでしょう。

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