庚

庚（こう、かのえ）

「庚」は、日本の伝統的な暦法や、中国の干支に代表される数え方で用いられる「十干」の第七番目に位置する要素です。読み方としては「こう」または「かのえ」とされます。

陰陽五行説の体系においては、「庚」は「金（ごん）」の属性を持ち、さらにその中の「陽（よう）」の性質を帯びるとされます。この「金性の陽」であることから、日本では特に「かのえ」という訓読みが用いられ、「金の兄」という意味合いで理解されることがあります。この五行と陰陽の組み合わせは、年、月、日、時間などの巡りを表す際に、その時期の性質や運勢を示す要素として重要視されます。

漢字の由来

「庚」という漢字そのものは、もともと特定の楽器、例えば鐘や鉦（しょう）のような金属製の打楽器を象った象形文字であると考えられています。しかし、これが十干における第七番目の記号として用いられるようになったのは、本来の文字の意味とは関係なく、同じ音を持つ、あるいは形が似ているといった理由で文字を借りてくる「仮借（かしゃく）」という用法によるものとされています。

暦法における位置づけ

「庚」は、主に干支の組み合わせとして、年や日を数えるのに用いられます。年の表記においては、西暦や皇紀の下一桁が「0」となる年、すなわち10の倍数となる年が「庚の年」にあたります。たとえば、西暦2020年や2030年は庚の年です。このように年を表す場合の「庚」には、「上章（じょうしょう）」という別名も存在します。日についても、干支が一巡する60日周期の中で「庚」を冠する日が巡ってきます。

文化と信仰

陰陽五行説における相剋（そうこく）の関係、特に「火は金を剋する（火剋金）」という考え方は、「庚」に関連する文化的な解釈に影響を与えています。火の気が最も強まる夏の季節においては、「庚の日」は火と金の相剋が激しくなる日と見なされ、特定の活動を避けるべき凶日とされることがあります。

この考え方から生まれたのが「三伏（さんぷく）」です。三伏とは、夏の最も暑い時期（夏至以降）に巡ってくる「庚の日」のうち、特に定められた3回の日のことを指します。具体的には、夏至以降の最初の庚の日を「初伏（しょふく）」、その次の庚の日を「中伏（ちゅうふく）」、立秋以降の最初の庚の日を「末伏（まっぷく）」と呼び、これらは暑さ厳しく、特定の行動を慎むべき時期とされてきました。

また、干支にはそれぞれ恵方が定められており、「庚」の恵方は「西南西やや西」、角度でいうと255度の方角にあたるとされています。

その他の用途

現代においては、伝統的な暦法以外にも「庚」の字が使われる例があります。例えば、中国語圏における有機化合物の命名法では、炭素原子を7つ持つ化合物や官能基を示す際に、接頭辞として「庚」が用いられることがあります。これはヘプタン（七炭化水素）やヘプチル基などに相当し、十干の「七番目」という位置づけが転用されたものと考えられます。

関連する干支

十干の「庚」は、十二支と組み合わされて干支を作ります。庚と組み合わせられる十二支は以下の通りです。

庚午（かのえうま）
庚辰（かのえたつ）
庚寅（かのえとら）
庚子（かのえね）
庚戌（かのえいぬ）
庚申（かのえさる）

また、十干において「庚」と反対側に位置するのは、「乙（きのと）」となります。

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