庚申堂 (奈良市)

奈良町の庚申信仰の中心、庚申堂

奈良市奈良町に位置する庚申堂は、地元の人々から「庚申さん」と呼ばれ親しまれている、庚申信仰の重要な拠点です。かつては幕末から明治にかけて建てられた堂宇が存在しましたが、老朽化のため、平成時代に再建されました。

庚申堂の概要

間口2間、奥行2間半の切妻造りで、本瓦葺の建物は、敷地いっぱいに建てられています。正面は全面が格子戸になっており、内部には8畳の座敷があります。座敷には須弥壇が設けられ、中央に本尊である青面金剛像、左右に吉祥天女像と地蔵菩薩像が安置されています。

身代わり猿と願い猿

庚申堂の象徴とも言えるのが、青面金剛の使いである猿をかたどったお守りです。これは魔除けとして、町内の各家の軒先に吊るされています。猿の大きさは家族構成に合わせて異なり、大きいものが大人、小さいものが子供を表しています。転出した家族の分の猿は庚申堂に預けられ、町との精神的な繋がりを保つ役割を果たしています。

この猿は「身代わり猿」とも呼ばれ、町の人々の災いを代わりに受けると信じられています。また、猿の帯の背中部分に願い事を書いて吊るすと願いが叶うとされ、「願い猿」とも呼ばれています。赤い座布団の四隅を折り曲げて結びつけ、猿の頭に見立てた独特の形状は、手足を縛られ、頭を垂れて体を屈曲させた猿の姿を表しており、大和小泉庚申堂や八坂庚申堂のくくり猿と共通の特徴を持っています。

庚申祭り

毎年3月の第2日曜と11月23日には、「庚申まつり」が開催されます。かつては、三尸の虫が嫌うとされるコンニャクを食べて虫封じをする習わしがあり、参拝者には大根とコンニャクの田楽が振る舞われていましたが、現在は食品衛生法の関係で中止されています。

庚申信仰の起源

庚申縁起に伝わる話によると、文武天皇の時代に疫病が流行した際、元興寺の護命僧正が祈祷したところ、1月7日に青面金剛が現れ、「汝の至誠に感じ入ったので、悪病を祓おう」と告げたとされています。その後、疫病は収束し、その感得の日が庚申の年、庚申の月、庚申の日であったことから、この地に青面金剛を祀り、三尸の虫を退治し、息災に暮らすことを願って人々が講を作り供養したと伝えられています。

庚申堂が奈良町の一部として成立したのは、元興寺の大部分が焼失し、奈良町の中心部が形成された室町時代以降と考えられています。江戸時代には、現世利益があると庚申信仰が広まり、「庚申」の日の夜に寝ずに一夜を明かす守庚申が行われ、くくり猿信仰が生まれました。

文化財

青面金剛像（本尊） - 木造彩色
吉祥天女像
水子地蔵
千体地蔵

所在地

奈良市西新屋町39

身代わり猿の祈祷・授与は、庚申堂の近くにある奈良町資料館（西新屋町14）および吉祥堂（14、15附近）で行われています。

交通アクセス

JR奈良駅から徒歩20分
近鉄奈良駅から徒歩15分

関連情報

金剛寺 (京都市東山区金園町)（くくり猿）
さるぼぼ
庚申塔
庚申信仰

庚申堂は、奈良町の歴史と文化、そして人々の信仰が息づく貴重な場所です。奈良町を訪れる際には、ぜひ足を運んでみてください。

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