座間谷戸山公園

神奈川県座間市に位置する県立の都市公園、「座間谷戸山公園（ざまやとやまこうえん）」は、広大な敷地に里山の風景を残す「自然生態観察公園」として整備されています。1993年（平成5年）に一部が開園し、その後の整備を経て2002年（平成14年）に全面開園を迎えました。総面積は約30.6ヘクタールにも及び、様々な自然環境と歴史的な要素が凝縮された空間を提供しています。

公園の特徴と構成

当公園最大の特色は、失われつつある日本の里山景観を保全し、多様な野生生物が暮らす環境を維持している点です。訪れる人々は、整備された園路を歩きながら、四季折々の自然の営みを間近に観察することができます。

公園内は、その自然環境や目的に応じていくつかの区域に分かれています。

サンクチュアリ: 公園全体の約3分の1を占めるこの区域は、主に水鳥の池を中心とした、野生生物保護のため立ち入りが制限されている特別なエリアです。野鳥観察用の小屋や休憩できる四阿が設けられています。
水鳥の池: 公園の中央付近に位置し、多種多様な水鳥が集まる場所です。特にバードウォッチャーに人気が高く、観察小屋も利用できます。
湿生生態園: 水辺の植物やそこに生息する小さな生き物を観察できるエリアです。中央に設置された四阿からは、水辺で活動するカモなどの鳥類も観察できます。
シラカシ観察林: 手入れされずに自然の遷移に任された雑木林（極相林）の様子を観察できる区域です。園路沿いには気象観測に使う百葉箱が設置されています。
田んぼ: 里山体験館の近くには、小さな規模ながら田んぼが保全されています。ここでは市民参加による田植えや稲刈りが行われ、秋には色とりどりのかかしが田んぼを飾ります。
野鳥の原っぱ: 広々とした草原環境は、草原性の野鳥のために保全されているエリアです。
昆虫の森: 雑木林を好む様々な昆虫たちの生息環境を守る目的で管理されています。
スギ・ヒノキ観察林: 人の手によって管理されている人工林の様子を観察できます。斜面に突き出すように作られた四阿からは、目の前に大きなハナイカダの葉を観察できます。ここにも百葉箱があります。
湧き水の谷: 公園内の湧き水が集まって小さな池を作り出している場所です。夏には美しいスイレンの花が咲き、初夏には夜になると幻想的な光を放つゲンジボタルが舞う様子が見られます。野鳥観察用のウォールも設けられています。
クヌギ・コナラ観察林: 里山の代表的な樹木であるクヌギやコナラが管理されている雑木林です。炭焼き小屋や四阿があり、里山の暮らしや営みを垣間見ることができます。
伝説の丘: 「本堂山」とも呼ばれるこの丘には、かつて星谷寺（星の谷観音）の本堂があったという伝説が伝わっています。竹林があり、山頂付近の四阿で休憩しながら周囲の景色を楽しめます。

旧街道の面影

公園内には、古くから人々が往来した旧街道の道筋が残されています。

府中街道: 長屋門の脇にある本堂坂を上り、伝説の丘の南側を通って公園の北側へ抜ける道です。街道沿いには、古い庚申塔や道祖神、馬頭観音といった石仏が今も残されています。
巡礼街道・星の谷道（ほしのやみち）: 公園南側の現在の神奈川県道42号線付近から南入口を通り、シラカシ観察林へ向かう道です。これは、坂東観音霊場の巡礼者が星谷寺（星の谷観音）へ向かうために利用した巡礼街道と、入谷地区の人々が東部の開拓地へ向かうために利用した星の谷道が重複する区間です。シラカシ観察林に残る区間は、鬱蒼とした雑木林を抜ける細い坂道で、往時の雰囲気を強く感じさせます。南入口から東へ約370メートル地点にある「わかされ」と呼ばれる交差点で、それぞれの道は分岐していました。

特に、南入口の脇にある庚申塔は、明和5年（1768年）に建てられた具像塔で、「三峯台の庚申」、またはかつて傍らに大きな榎があったことから「榎庚申」とも呼ばれます。正面には青面金剛像と三猿が彫られ、側面には「右江戸つるまみち」「左大山あつぎみち」「右ほしのや道」などと、当時の主要な方面を示す道標としての役割を担っていたことが刻まれています。この庚申塔は、2020年の県道拡幅工事に伴い、旧街道を挟んだ反対側へ移設されました。

公園施設とアクセス

公園には利用者のための施設も充実しています。

パークセンター: 東入口近くにあり、公園に関する様々な情報を提供しています。約50名収容可能なレクチャールームを備え、公園管理事務所も兼ねています。利用時間は8時30分から17時まで（レクチャールームは9時から16時30分）。
里山体験館: 西入口、長屋門の近くにある民家風の建物です。車イスや自然観察用の双眼鏡の貸し出しを行っており、里山体験の拠点ともなります。利用時間は9時から16時30分まで（座敷利用は16時15分まで）。
ログハウス: 南入口近くにある休憩用の建物です。ホール部分はどなたでも自由に利用できます。利用時間は9時から16時30分まで。
駐車場: 東入口（78台）、北入口（39台）、多目的広場（29台）に合計3か所あり、いずれも無料で利用できます。利用時間は4月から10月は7時から18時、11月から3月は7時から17時です。

公園へのアクセスは、電車と自動車のいずれでも便利です。

電車・徒歩: 小田急線座間駅東口から徒歩約8分で西入口（長屋門）に、小田急線相武台前駅南口から徒歩約12分で東入口に到着します。
* 自動車: 国道246号線からアクセスできます。伊勢原方面からは下今泉交差点を左折し、星の谷観音坂下交差点を右折します。町田方面からは西原交差点を右折します。

座間谷戸山公園は、豊かな自然環境と歴史的な背景が融合した、市民にとって貴重な憩いの場であり、自然学習の場でもあります。季節ごとに異なる表情を見せる里山の風景や、そこに息づく多様な生命、そして古の街道の物語を感じながら、心穏やかな時間を過ごすことができるでしょう。

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