式三番

式三番とは

式三番は、能楽を構成する特別な芸能の一つで、能、狂言と並び称されます。元々は能楽の演目であった「翁」が、歌舞伎舞踊や日本舞踊にも取り入れられ、各地の郷土芸能や神事としても広く伝承されています。能楽においては「翁」と呼ばれるのが一般的です。

概要

式三番は、能楽（猿楽）が成立する以前の翁猿楽の様式を色濃く残しています。翁猿楽とは、老人の面をつけた神が踊り語り、祝福を与える芸能です。8世観世鐵之丞によると、式三番は元々、五穀豊穣を祈る農村行事であり、翁は集落の長の象徴、千歳は若者の象徴、三番叟は農民の象徴とされています。

式三番は、父尉（ちちのじょう）、翁（おきな）、三番猿楽（三番叟（さんばそう）、大蔵流では三番三）、風流から構成されます。特に、父尉、翁、三番猿楽は連続して上演されるため、この名称が用いられます。室町時代以降、父尉は省略され、翁を能楽師が、三番叟を狂言師が担当します。式三番は筋立てよりも、老体の神が天下泰平、国土安穏、五穀豊穣を祝祷する神事的な内容が中心です。五番立の場合には、脇能に先立ち、全体の祝言として演じられます。

式三番には、翁役の大夫（シテ方）、千歳役（上掛りではシテ方、下掛りでは狂言方）、三番叟役（狂言方）、面箱持役（上掛りのみ、狂言方）、笛方、小鼓方3名、大鼓方の計8ないし9名の役者が関わります。小鼓は3丁で連調し、大鼓は三番叟の段でのみ加わります。太鼓方は舞台に出ますが、式三番には加わらず、脇能から参加します。

式三番は、能楽において非常に神聖かつ重要な曲として扱われます。翁、千歳、三番叟、囃子はそれぞれ習いが必要とされ、流儀によって異なります。素人、玄人に関わらず、女性による上演には一定の制限があります。上演前には、役者は一定期間の物忌みを行い、当日は祭壇を設け、盃事や切火で身を清めるなどの特別な作法があります。

金春禅竹の能楽理論書『明宿集』には、翁を「猿能の能の世界を司る存在」とする記述があります。翁は老爺の姿をしており、人間の無意識の状態でのみ姿を見ることができる存在とされます。また、同書では翁を「宿神」とし、この世とあの世を繋ぐ精霊のようなものと解釈しています。

上演形態

現在、一般的に上演される式三番は以下の形態をとります。

序段
座着き：笛の前奏で役者が登場します。
総序の呪歌：一座の大夫が、式三番全体の祝言を謡います。
翁の段
千歳之舞：翁の露払役として若者が舞います。
翁の呪歌：翁が祝言の呪歌を謡います。
翁之舞：翁が祝言の舞を舞います。
三番叟の段
揉之段：露払役の舞を三番叟自身が舞います。
三番叟の呪歌：三番叟が千歳との問答形式で祝言の呪歌を謡います。
鈴之舞：三番叟が祝言の舞を舞います。

装束は、翁は直面、翁烏帽子、白襟2枚、白練の着付、指貫、翁狩衣、腰帯、翁扇を身につけ、後に白式尉面（白紐）をつけます。千歳は侍烏帽子、赤襟、段厚板の着付、千歳直垂上下、小刀、神扇を身につけます。三番叟は直面、侍烏帽子、厚板の着付、三番叟直垂上下、三番叟扇を身につけ、後に剣先烏帽子、黒式尉面、鈴を持ちます。面箱持は千歳と同じ装束で、面箱を持ちます。囃子方、地謡方、後見方は侍烏帽子、熨斗目、素袍上下、扇子を着用します。

小書

式能のための小書として、初日之式、二日之式、三日之式、四日之式、法会之式があります。これらの小書は、数日間にわたる五番立の演能において、毎日同じ式三番にならないように工夫されたものです。小書によって詞章に多少の違いはありますが、内容は大きく変わりません。また、立合ものとして、弓矢立合、船立合、十二月往来があります。これらは翁の数が3人に増え、相舞をする特殊な演目です。さらに、「翁付き」として、翁に続けて「高砂」や「養老」などの能が上演されることもあります。これは格式の高い演能形式です。

郷土芸能としての式三番

式三番は、大和猿楽に吸収・統合された役者たちだけでなく、各地に土着の芸能としても継承されています。東京都の檜原村小沢郷の小沢式三番や笹野郷の笹野式三番、岩手県平泉町の白山神社で伝承される古実式三番などがその例です。

参考文献

観世鐵之丞『ようこそ能の世界へ』暮らしの手帖社、2000年
井上由理子『能にアクセス』淡交社、2003年

関連項目

翁
翁舞
車大歳神社の翁舞
* 奈良豆比古[[神社の翁舞]]

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