弟猾

弟猾（おとうかし）について

弟猾は、古代日本の歴史において特異な存在感を持つ人物で、主に『古事記』や『日本書紀』にその名が記されています。この人物は、大和国の宇陀地域における豪族の一員であり、兄猾（兄宇迦斯）の弟として記録されています。弟猾は神日本磐余彦天皇の暗殺企てを事前に察知し、これを密告することによって、皇位を守る重要な役割を果たしました。

経歴と業績

記紀に記載された弟猾の業績は、単なる密告にとどまらず、彼の知恵と勇気が如何に社会に貢献したかを示しています。『書紀』の第三巻では、彼が磐余彦に従軍し、敵対する八十梟帥と赤銅の存在を見抜くという重要な情報を提供するシーンが描かれています。さらに、神社の建設を提案し、必要な資材を調達するために天香具山から埴土を取ってくるよう命じられます。

この時、弟猾は老父の椎根津彦と共に、敵兵に対して「うけい」を行い、自らの容姿を利用して安全に埴土を取りに行くことに成功します。彼らの実行したこの行動は、実に巧妙で、敵兵たちも彼らの見た目のあまりの醜さから道を譲る結果となりました。

埴土を無事に持ち帰った後、磐余彦はこの土を利用して神聖な器を作成し、神々への供物を捧げるための準備を進めます。これにより、彼は勝利を得るための準備を整え、戦争が激化する中で重要な役割を果たすこととなります。

10月1日、磐余彦は厳瓮からの供物を口にし、元気を得た彼は、八十梟帥を打ち破り勝利を収めます。この戦いは、弟猾と磐余彦が連携し、困難な状況を克服した結果の一つです。最終的には、神武天皇としての即位が決まり、弟猾もその功績によって恩賞として猛田邑を授かることになります。

その後の評価と承認

弟猾は、神武天皇の時代においてもその功績が高く評価され、彼に与えられた「猛田県主」という称号は、彼の地位と名声を示すものとなっています。また、彼の子孫が宇陀地域に根付くこととなり、さらには水取の祖先としての役割も果たしていきます。

『古事記』の記録によれば、彼は水取の祖先としての位置づけを持つことから、彼の家系がその後の歴史にも影響を与えたことが明らかです。683年に天武天皇の命により、弟猾の子孫に「連」の姓が授けられることからも、彼の重要性が伺えます。彼の人生と業績は、古代日本の歴史を紐解く上で、欠かせないエピソードとなっています。

参考文献

• - 『古事記』完訳日本の古典1、小学館、1983年
• - 『日本書紀』（一）・（五）、岩波文庫、1994年、1995年
• - 『日本書紀』全現代語訳（上）・（下）、講談社学術文庫、宇治谷孟：訳、1988年
• - 『日本の歴史1　神話から歴史へ』、井上光貞：著、中央公論社、1965年
• - 別冊歴史読本「謎の歴史書『古事記』『日本書紀』」歴史の謎シリーズ6、文：小林敏男、新人物往来社、1986年

弟猾の物語は、彼が如何にして歴史の中で生き、重要な役割を果たしたかを教えてくれる貴重な資料です。

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