弦楽四重奏曲第10番 (シューベルト)

弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 作品125-1, D 87

フランツ・シューベルトによって1813年に作曲された弦楽四重奏曲です。シューベルトが16歳という青年期に書かれた初期の作品にあたります。

作曲の背景と作品番号の謎

この作品がどのような背景で誕生したのか、正確なところは分かっていません。しかし、高名な音楽学者オットー・エーリヒ・ドイッチュ博士は、当時16歳だったシューベルトが、家族と共に演奏するために書き、実際に弾かれたものだったのではないかと推測しています。そのため、海外では「家庭」や「家族」を意味するドイツ語『ハウシャルテュング（Haushaltung）』という愛称で呼ばれることもあります。

「第10番」という番号は、かつてブライトコプフ・ウント・ヘルテル社が出版した旧シューベルト全集において、便宜的に付けられたものです。これはシューベルトが亡くなった直後の1830年、この曲が『第11番 ホ長調 作品125-2』（D 353）とともに『作品125』として出版されたことに由来します。この出版により、両曲が同時期に書かれた作品であるかのような誤解が生じました。しかし、実際には本作は1813年11月に作曲されており、同時期の作品とされる『第6番 ニ長調』（D 74）や『第8番 変ロ長調』（作品168, D 112）の間に位置します。

さらに、シューベルトの作品を整理したドイッチュ番号においても、本作には『D 87』が付与されており、『第7番 ニ長調』（D 94）よりも若い番号となっています。近年の研究では、『第7番』は本作より早く、1811年から1812年頃に『第1番 ト短調/変ロ長調』（D 18）や『第2番 ハ長調』（D 32）の間に作曲されたと考えられているため、番号の順序と実際の作曲順にはずれが生じています。

作品の特徴

この曲は全4楽章からなり、演奏時間は約26分です。すべての楽章が主調である変ホ長調で書かれている、いわゆる「ホモトナル」な作品です。青年期に書かれた作品であるため、後の傑作に見られるようなシューベルト特有の深遠な個性が強く現れているわけではありません。しかし、既に彼の持ち味である、流れるような伸びやかな楽想の萌芽が見られます。

楽章構成

曲は以下の4つの楽章で構成されています。

1. 第1楽章 アレグロ・モデラート
変ホ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）、ソナタ形式。付点リズムと3連音符が特徴的に使われています。

2. 第2楽章 スケルツォ：プレスティッシモ - トリオ
変ホ長調 - ハ短調、4分の3拍子、複合三部形式。「スケルツォ」と記されていますが、実際には非常に速いテンポのメヌエットに近い性格を持っています。

3. 第3楽章 アダージョ
変ホ長調、8分の6拍子、三部形式。

4. 第4楽章 アレグロ
変ホ長調、4分の2拍子、ソナタ形式。

この弦楽四重奏曲は、シューベルトの初期作品を知る上で興味深い一曲であり、後の傑作群へと繋がる彼の才能の一端を垣間見ることができます。

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