張世東

張世東：全斗煥政権の影と光

張世東（チャン・セドン、1936年9月27日-）は、韓国の軍人、政治家で、全斗煥政権下で要職を歴任した人物です。陸軍中将にまで上り詰めた軍人としてのキャリアに加え、大統領警護室長、国家安全企画部長といった要職を歴任、全斗煥大統領の側近として絶大な信頼を得ていました。その忠誠心は広く知られており、全斗煥の後継候補として名前が挙がるほどでした。

生い立ちと軍歴

全羅南道高興郡出身の張世東は、陸軍士官学校を卒業後、少尉として任官。その後、北極星会やハナフェといった陸軍士官学校出身者組織に所属しました。ベトナム戦争にも従軍し、激戦地で負傷しながらも任務を全う、その武勇はメディアにも大きく報道されました。この戦いで出会った全斗煥から「真の兵士」と称賛されたことが、後の忠誠心の礎となったとされています。

帰国後、首都警備司令部などに勤務。特に1979年の粛軍クーデターでは、全斗煥らハナフェの中心メンバーとして重要な役割を果たしました。クーデター後、全斗煥政権下では、大統領警護室長に抜擢され、1983年のラングーン事件では全斗煥大統領の警護に当たったことで危険を免れました。その後、国家安全企画部長に就任し、韓国の政治工作において大きな影響力を持ちました。北朝鮮との秘密会談に携わったという説もあります。

政治工作と失墜

国家安全企画部長在任中は、統一民主党結党妨害事件やスージー・キム事件など、数々の政治工作に関与したとされています。しかし、1987年の朴鍾哲拷問致死事件の隠蔽工作が失敗したことで世論の批判を浴び、責任を負い辞任に追い込まれました。この事件は「死せる孔明生ける仲達を走らす」になぞらえて「死せる鍾哲生ける世東を走らす」と言われるほど、大きな社会問題となりました。

民主化後、張世東は過去の政治工作の責任を問われ、裁判にかけられました。統一民主党結党妨害事件では有罪判決を受け服役。また、粛軍クーデターや5・17非常戒厳令拡大措置への関与でも有罪判決を受けましたが、後に恩赦を受けて釈放されました。しかし、スージー・キム事件では損害賠償責任を問われ、多額の賠償金を支払うこととなりました。

人物像と評価

張世東は寡黙で義理堅い人物として知られていました。特に全斗煥への忠誠心は揺るぎないものであり、第5共和国聴聞会での証言はその忠誠心を如実に示しています。獄中生活においても、規律正しい行動を貫き、周囲の人々から敬意を払われていたという逸話も残されています。

張世東の生涯は、韓国現代史において重要な位置を占める全斗煥政権の暗部と、その中で揺れ動く一人の男の姿を浮き彫りにしています。その功績と罪悪、忠誠心と野望、そしてその複雑な人生は、現在もなお多くの人々の議論を呼んでいます。

映画・ドラマへの登場

張世東は、韓国の映画やドラマ作品にも数多く登場しています。様々な作品で、その人物像や歴史的役割が異なる解釈で描かれています。これら作品を通して、張世東という人物像が、多角的に捉え直される機会が生まれています。

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