張育

張育（ちょう いく）

張育は、五胡十六国時代に蜀に現れた人物です。彼の生涯は、戦乱の時代における地方勢力の抵抗と、死後の神格化という二つの側面を持っています。

生涯

張育は、374年に前秦の益州支配に対して反旗を翻しました。益州はかつて東晋の領土でしたが、前秦によって奪われていました。張育は、楊光と共に挙兵し、その呼びかけに応じた人々は2万にも上りました。さらに、周辺の異民族である巴獠も彼に協力しました。

事態を重く見た前秦の君主、苻堅は、鄧羌に5万の兵を与えて鎮圧に向かわせました。一方、張育は東晋に救援を要請し、東晋朝廷はこれに応じ、竺瑶と桓石虔を派遣しました。東晋軍は前秦の将軍、姚萇を破り、巴東まで進軍しました。

勢いに乗った張育は蜀王を自称し、巴獠の酋長である張重や尹万らと共に成都を包囲しました。また、元号を黒龍と定めました。しかし、内部での権力闘争が起こり、張育は張重らと対立するようになります。この隙を突いて、前秦軍は張育軍を攻撃し、張育は楊光と共に綿竹へ退却しました。

東晋軍は涪西で鄧羌に敗れ、前秦軍は成都の南で張重と尹万を破り、張重は戦死しました。鄧羌が綿竹へ進軍すると、張育は楊光と共に迎え撃ちましたが、敗北し討ち取られました。これにより、益州の反乱は鎮圧されました。

文昌帝君としての神格化

張育の死後、蜀の人々は彼の死を悼み、梓潼の七曲山に祠を建立しました。彼は龍神の化身として崇められるようになり、『雷澤龍王』と呼ばれるようになりました。七曲山には以前から土着神である『亜子』の祠があり、張育の祠と並んで存在していたため、やがて両者は同一視されるようになり、『張亜子』と呼ばれるようになりました。

後秦を樹立した姚萇は、『張相公廟』を建てて張亜子を祀りました。唐の時代になると、張亜子の信仰は非常に盛んになり、玄宗は彼を左丞相に追封し、僖宗は自ら祭祀を行い済順王に封じました。唐朝の皇帝による崇拝により、張亜子の存在は中華全域に広まりました。

宋の時代になると、張亜子は学問の神として崇められるようになり、科挙の受験生たちがこぞって彼を奉じました。道教における学問の象徴である文昌星の化身と見なされるようになり、文昌帝君と呼ばれるようになりました。宋の皇帝たちからも様々な称号を与えられ、元の仁宗からは輔元開化文昌司禄宏仁帝君に封じられました。

現在でも、特に中国南部において文昌帝君は広く信仰されています。

参考文献

『晋書』載記第13
『資治通鑑』巻103
* 『文昌帝君陰騭文』

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