僖宗

僖宗（きそう）：唐朝を揺るがせた皇帝

僖宗は、唐朝の第21代皇帝として、激動の時代を生きました。彼の生涯は、内政の混乱と大規模な農民反乱によって特徴づけられます。

即位と享楽的な生活

咸通14年（873年）、父である懿宗の崩御後、わずか12歳で宦官たちによって擁立され即位しました。しかし、政治は宦官の田令孜に一任し、自身は贅沢な生活に明け暮れました。特に馬球を好み、『資治通鑑』には、側近に対し「馬球の科挙があれば自ら状元となるだろう」と語った記録が残されています。この発言は、彼の政治への関心の薄さを象徴していると言えるでしょう。

黄巣の乱と逃亡

在位中は連年の自然災害により民衆の生活は困窮し、乾符元年（874年）には王仙芝、翌年には黄巣が相次いで叛乱を起こしました。これが後に大規模な農民叛乱「黄巣の乱」へと発展します。黄巣軍は勢力を拡大し、福建や広州を陥落させた後、北上して中原を席巻。広明元年（880年）には洛陽、そしてついに長安を占拠するに至りました。

長安陥落を受け、僖宗は田令孜とともに500の神策軍を率いて蜀へと逃亡。この事態に対し、沙陀族の李克用に救援を要請しました。李克用は黄巣軍を破り、関中から撤退させることに成功します。中和4年（884年）に黄巣は自殺し、中和5年（885年）に僖宗は長安へ帰還しますが、地方では軍閥が割拠し、朝廷の統治能力は大きく低下していました。唐王朝は、実質的に河西・山南・剣南・嶺南西道などの地域を統治する地方政権へと変貌していました。

さらなる混乱と簒奪

中和5年（885年）、田令孜と河中節度使の王重栄の対立から、王重栄が李克用に支援を要請し、李克用が長安へ迫る事態となります。田令孜は再び僖宗と共に鳳翔へ逃亡。皇帝不在の長安は諸道兵馬によって荒らされ、宮殿の大半が焼き討ちに遭い、荒廃しました。

この混乱に乗じて、邠州節度使の朱玫は粛宗の子の襄王李僙の曾孫である襄王李熅を皇帝に擁立。僖宗を皇位簒奪者として非難し、王重栄と李克用に朱玫討伐を命じました。最終的に、朱玫は寵臣の王行瑜によって殺害され、その一派も粛清されました。

晩年と崩御

戦乱が一段落した光啓4年（888年）に僖宗は長安へ帰還しますが、朝政の実権は宦官の楊復恭が掌握していました。その直後の文徳元年（888年）3月6日に崩御。彼の治世は、唐王朝衰退の象徴として語り継がれています。

僖宗が長安を放棄して蜀に遷都した際、女官から非難されて何も言い返せなかったという逸話は、彼の優柔不断な性格を強調するものとして伝えられています。彼の陵墓は発掘調査されましたが、規模の割に石室は貧弱で、壁画も粗末なものでした。

宗室

子女
男子
建王李震
益王李陞
女子
唐興公主
* 永平公主

僖宗の時代は、唐王朝が衰退の一途を辿る転換期であり、彼の治世は後世に多くの教訓を残しました。

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