強膜

強膜（きょうまく、sclera）

強膜は、眼球を包む最も外側の層である眼球外膜の一部で、主に眼球の後方5分の4を占める白色不透明の丈夫な被膜です。その名称はギリシャ語で「強い」を意味する言葉に由来しており、漢字では鞏膜と表記されることもあります。

概要

強膜は、眼球外膜を構成するもう一つの要素である角膜と連続しています。厚みは場所によって異なり、最も薄い部分は約0.4mm、最も厚い部分は約1mmです。この膜は緻密な結合組織から成り、眼球の内部構造を保護し、その形状を維持する上で重要な役割を果たします。また、眼球を動かす外眼筋が付着するための土台ともなります。強膜と角膜の境界付近には、眼房水の排出に関わるシュレム管が走っています。

発生学的には、神経堤細胞という外胚葉由来の細胞から形成されます。幼い頃の強膜は薄いため、内側の色素が透けてわずかに青みがかって見えることがありますが、加齢に伴い色素沈着が進んでやや黄色味を帯びてくるのが一般的です。肝機能障害などによる黄疸がある場合は、この強膜がはっきりと黄色く染まるため、疾患発見の手がかりとなることがあります。

構造と組織

強膜は全体として白色で不透明であり、これはコラーゲン線維が不規則に配列しているためです。弾性線維も少量含まれています。眼球の後方では視神経が強膜を貫通しており、この部分は篩（ふるい）のような構造になっているため強膜篩板（しつばん）と呼ばれます。強膜篩板には視神経の線維束のほか、網膜中心動脈や静脈、毛様体血管、神経などを通す多数の孔が開いています。眼球に出入りする血管や神経（毛様体神経、毛様体動脈、渦静脈など）も強膜を貫いています。

強膜の外側は、前方では眼球結膜に覆われ、「白目」として見えている部分です。この結膜と強膜の間には血管に富む疎性結合組織の層があり、これを上強膜と呼びます。後方では、眼球を包む疎性結合組織の膜であるテノン嚢に覆われています。

組織学的には、強膜は主に緻密なコラーゲン線維からなる強膜実質（固有層）で構成されます。その外側には血管に富む強膜上板があり、内側には脈絡膜との境界をなす脈絡上板（約30μm）が存在します。脈絡上板と強膜の間が剥離した状態が脈絡膜剥離です。強膜のコラーゲン線維は角膜のコラーゲン線維ほど細く均一に配列しておらず、これが不透明性の理由の一つです。強膜にはメラニン色素を含む細胞が散在しており、時として無害な灰青色の色素斑が見られることがあり、これを強膜黒色細胞腫と呼びます。

多くの脊椎動物、特に魚類や爬虫類、鳥類では、強膜が軟骨や骨のプレートで補強されていることがあり、強膜骨環と呼ばれます。しかし、哺乳類を含む一部の動物群ではこの構造は見られません。

機能

人間の目は、他の動物と比較して独特の性質を持っています。特に強膜、すなわち「白目」の部分が大きく露出しており、目を開けている状態ではっきりと認識できます。これは人間の虹彩が、眼球の露出部分に対して相対的に小さいためと考えられています。この目立つ白い強膜は、社会的コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしているという説があります。

人間は相手の目の動き、特に白い強膜の中での虹彩の動きを観察することで、その視線や意図を容易に推測できるとされています。これにより非言語的なコミュニケーションの精度が高まり、社会的動物としての協調性を高める進化に適応したと考えられています。例えば、人間とともに生活する犬も、人間の視線を手がかりに行動することが研究で示されていますが、これは犬が他の犬の視線を読み取るようなコミュニケーション方法を持たないことから、人間との共生の中で獲得した能力と考えられています。

疾患

強膜には様々な疾患が発生します。主なものとしては、先天性の異常と炎症性の疾患があります。

先天性疾患
青色強膜: 遺伝性の疾患で、強膜の線維構造が変化して薄くなり、内側の脈絡膜の色素が透けて見えるため強膜が青みがかって見える状態です。通常、視機能に直接的な障害はありませんが、難聴や骨形成不全などの他の全身症状（オステオジェネシス・インパーフェクタなど）を伴うことがあります。
強膜メラノーシス: 強膜にメラニン色素が過剰に蓄積した結果、境界のはっきりした青みがかった灰色の色素斑が現れる状態です。顔面皮膚の色素性母斑（太田母斑など）と同時に見られることが少なくありません。

炎症性疾患
上強膜炎: 強膜の最も外側の層である上強膜に炎症が生じる状態です。眼球結膜の下に充血が見られ、結膜自体も充血や浮腫を伴うことがあります。比較的軽度で、多くの場合自然に治癒するか、点眼薬で管理可能です。
強膜炎: 強膜そのものに炎症が及んだ状態です。上強膜炎よりも痛みが強く、強膜が紫色調に強く充血します。血管収縮薬を用いても充血は消えません。炎症が隣接する角膜に広がると、硬化性角膜炎と呼ばれる状態を引き起こすことがあります。強膜炎が治癒した後、炎症を起こした部分の強膜が薄くなり、内側のぶどう膜が透けて灰色に見えたり、眼圧に耐えきれずに強膜が拡張して隆起したりすることがあります。この隆起は強膜ぶどう腫と呼ばれます。

強膜の健康は視力維持だけでなく、眼球全体の機能にとって不可欠です。異常を感じた際は速やかに眼科医の診察を受けることが重要です。

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