形式主義 (音楽)

形式主義とは

音楽における形式主義とは、音楽作品の意味が、その形式によって完全に規定されるという考え方を指します。これは、音楽の美しさや価値を、作品の構造や構成といった形式的な要素に見出す立場です。

理論的背景

音楽理論家のレオナルド・B・マイヤーは、著書『音楽における意味・感情・表現』の中で、形式主義者と表現主義者を対比させました。彼は、形式主義者が音楽の意味を、知的な理解を通じて捉えるべきだと主張するのに対し、表現主義者は音楽の意味を、聴き手の感情という感覚的な問題として捉えるべきだと主張すると述べました。ここで言う表現主義とは、特定の音楽ジャンルを指すのではなく、音楽の意味を感情に求める立場を指します。

マイヤーは、代表的な形式主義者として音楽評論家エドゥアルト・ハンスリックを挙げています。ハンスリックは、ヨハネス・ブラームスの音楽が主観的な表現を避け、明確な形式に基づいている点を高く評価しました。一方で、フランツ・リストやリヒャルト・ワーグナーのような標題音楽は、形式よりも内容に重点を置いているとして、評価しませんでした。

また、マイヤーはイーゴリ・ストラヴィンスキーも形式主義者として位置づけています。ストラヴィンスキー自身は、形式主義者と見なされることを必ずしも好んでいませんでしたが、著書『音楽の詩学』では、形式主義的な視点から「音楽現象」を探求しています。形式主義は、時には十二音技法のように厳格な作曲技法を指すこともありますが、この場合は否定的な意味合いで使用されることもあります。

形式主義という言葉は、しっかりとした形式美を守った古典派の作曲家に対して用いられることが一般的です。特にソナタ形式は古典派の代名詞とも言えますが、これは「主義」というよりも「形式の時代」と捉える方がより適切かもしれません。

ソビエト連邦における形式主義

ソビエト連邦、特にスターリン主義時代には、「形式主義」という言葉は、当局によって大衆への訴求力が低い音楽を指す言葉として使われました。これは、マルクス主義の文学理論から派生したもので、形式に偏り、社会への貢献を軽視する音楽家を批判するためのレッテルとして利用されました。

ドミートリイ・ショスタコーヴィチは、生涯で2度「形式主義者」と批判されました。1度目は1936年に、彼のオペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』が共産党機関紙「プラウダ」で批判されたことです。この批判を受け、ショスタコーヴィチはモダニズム色の強い『交響曲第4番』の初演を撤回し、社会主義リアリズムに沿った『交響曲第5番』を作曲しました。2度目は1948年のジダーノフ批判で、ショスタコーヴィチの他に、セルゲイ・プロコフィエフ、アラム・ハチャトゥリアンなど、多くのソ連を代表する作曲家が形式主義者として批判されました。

このような形式主義者への弾圧は、ソ連だけでなく他の東側諸国にも広がりました。例えば、第二次世界大戦後のポーランドでは、スターリン主義政権が作曲家に社会主義リアリズムを求め、ヴィトルト・ルトスワフスキやアンジェイ・パヌフニクは形式主義者と見なされ、作品の出版や上演が禁止されました。コダーイ・ゾルターンも、ハンガリーでも同様の問題があると不満を述べています。

このように、音楽における形式主義は、単なる美学的な概念にとどまらず、政治的な意味合いも持つ複雑な概念です。その歴史的背景と多面的な解釈を理解することは、音楽をより深く理解する上で重要です。

関連事項

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