彦根屏風

彦根屏風について

彦根屏風（ひこねびょうぶ）は、江戸時代初期に制作された風俗画で、現在は滋賀県彦根市の彦根城博物館で保管されています。この作品は、紙本金地に彩色が施された六曲一隻の中屏風画で、縦94cm、横271cmという大きなサイズを持ち、昭和30年（1955年）には国宝に指定されています。国宝指定名称は「紙本金地著色風俗図（彦根屏風）」です。近世初期の風俗画としては重要な作品で、浮世絵の源流とも考えられています。

描かれた場面

彦根屏風は、近世初期の京都六条柳町（通称三筋町）に描かれた遊里の風景を表現しています。当時、この地域の太夫は、四条河原町で演じられる遊女歌舞伎の演者でもありました。そのため、絵には遊里や歌舞伎といった華やかで享楽的な題材が取り入れられているものの、どこか冷たく寂しげな雰囲気も漂っています。制作された年代は、金地の使い方や他の類似作品との比較から寛永年間、つまり寛永6年（1629年）から11年（1634年）の間と考えられています。この時期は、風紀の取り締まりが厳しくなり、当時の情景は急速に消えつつありました。したがって、絵の発注者や画家は、かつて楽しんでいた情景を思い出すためにこの作品を制作した可能性があります。

画中の形式

彦根屏風の中の形式は、当時の日本の「俗」な遊びを、中国の文人たちが好んだ「雅」な遊びに置き換えたものと指摘されています。つまり、琴は三味線、棋（囲碁）はすごろく、書は艶文、画は山水画としてそれぞれ見立てられています。この趣向は、近世絵画においては珍しいものであり、彦根屏風はその最初期の作例として位置付けられています。その後、このスタイルは浮世絵作品にも受け継がれていきました。

伝来の経緯

彦根屏風は彦根藩の井伊家に伝わっていたことからその名がありますが、井伊家に入ったのは比較的新しい時期で、幕末の大老井伊直弼の代からと言われています。直弼は、安政の大獄などで評判が悪く、後に彼を持ち上げる談話が多かったため、彼の代に彦根屏風が入ったという説は一要素に過ぎません。一方、直弼の兄井伊直亮は、洗練された美意識を持つ人物であり、その趣味も多才でした。このことから、彦根屏風は直亮に相応しい作品だと考えられることもあります。

彦根屏風は、長い期間「捲り」の状態で伝来されていましたが、大規模な修復が行われていたことがわかっています。特に、屏風を収納するための黒漆塗の三重箱や春慶塗の外箱に厳重に保管されていたことがその証でもあります。直亮はこの作品に相応しい表具を施そうとしたものの、完成間近に彼が亡くなり、次代の直弼はその意向を継ぐことができなかったようです。

作者について

彦根屏風の制作に関しては、かつては近世初期風俗画の常であった岩佐又兵衛が作者とされていましたが、現在では狩野派の絵師の手による作品であるとの見解が強まっています。具体的には、狩野山楽や狩野興以、狩野長信らの名前が挙げられていますが、特定には至っていません。それでも、作品中の人物描写や山水画法には非常に高い技量がうかがえ、特にその細密な描写にはフェティシズムを感じさせるものがあります。

まとめ

彦根屏風は、江戸時代の風俗画の一大傑作であり、その保存状態も素晴らしく、毎年春頃に所蔵先の彦根城博物館で公開されています。彦根屏風は、日本の美術史における重要な位置を占めており、ただの絵画ではなく、その背後にある歴史や文化を理解する手がかりとなる貴重な作品です。

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