後世派

後世派（ごせいは）

後世派とは、漢方医学における学派の一つで、唐・宋時代以降の医学書を根拠とする処方を重視する立場を指します。別名、後世方派とも呼ばれます。

概要

古方派が原典とする『傷寒論』や『金匱要略』は、主に中国北部や中部で入手しやすい植物性の生薬を使い、処方を構成する生薬の種類も4～8種類程度と比較的シンプルです。これに対し、後世派は東南アジアやインド、中東、ヨーロッパなどから輸入された生薬や、牛黄（牛の胆石）、熊胆（クマの胆汁）、麝香（ジャコウジカの性腺分泌物）といった希少な動物性生薬も積極的に用いる点が特徴です。

後世派の処方は、それぞれの薬味（生薬）に「気味」と呼ばれる温感（寒・涼・平・温・熱）と、「五味」（酸・苦・甘・辛・鹹）を配当し、さらに経絡との関係や処方内での役割に応じて、君・臣・佐・使の区別を設けるなど、非常に理論的な体系を持っています。しかし、臨床での実践よりも、理論的な解釈に偏重する傾向があり、時にはこじつけともとれるような、机上の空論に陥る側面も指摘されています。

日本における後世派

日本では、主に金・元時代の医学を信奉する人々を後世派と呼びます。戦国時代の田代三喜、そしてその門人である曲直瀬道三（『啓迪集』の著者）と曲直瀬玄朔（『医学天正記』の著者）親子が、日本の後世派の祖とされています。

江戸時代には、岡本玄治、古林見宜、長沢道寿、堀正意、饗庭東庵、味岡三伯、香月牛山、岡本一抱、堀元厚など、多くの名医が後世派として活躍しました。田代三喜や曲直瀬道三は「金元四大家」のうち、李杲と朱震亨の説を重視しましたが、饗庭東庵、味岡三伯、岡本一抱、堀元厚らは、残りの劉完素と張子和の説を重んじました。そのため、東庵らの流れを後世派の分派とみなす考えもあります。また、堀元厚の門人である国学者の本居宣長も、医学的にはこの流れを汲んでいます。

後世派への批判と古方派の台頭

後世派の思弁的な傾向に対しては、「理論偏重で実践的ではない」という批判も存在しました。このような批判を背景に、『傷寒論』など、唐以前の古典を重視し、実証主義を重んじる名古屋玄医や後藤艮山らの古方派が台頭する要因の一つとなりました。

参考文献

薬科学大辞典編集委員会編『薬科学大辞典』廣川書店、1985年、p.476.
大塚恭男「漢方医学」（『国史大辞典 3』（吉川弘文館、1983年） ISBN 978-4-642-00503-6）
* 富士川游/小川鼎三（校注）『日本医学史綱要』（平凡社ワイド版東洋文庫、2003年、原著は1933年）

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