曲直瀬玄朔

曲直瀬玄朔

曲直瀬 玄朔（まなせ げんさく）は、天文18年（1549年）に生まれ、寛永8年12月10日（1632年1月31日）に没した、安土桃山時代から江戸時代にかけての著名な医師です。彼は、当時の医学界において重要な役割を果たし、多くの人々に影響を与えました。

生涯

玄朔は幼少の頃に両親を亡くし、母の兄である曲直瀬道三（まなせ どうさん）に育てられました。道三は著名な医者であり、玄朔は彼の指導の下で医学の知識と技術を習得しました。天正9年（1581年）には、道三の孫娘を妻に迎え、養子となり、道三流医学の全てを伝授されました。

天正11年（1583年）、玄朔は卒中で倒れた正親町天皇の治療に成功し、その名声は朝廷にまで広まりました。天正14年（1586年）には法印に任じられ、その医学的才能は広く認められました。天正15年（1587年）には、豊臣秀吉の命により、九州平定に出兵中の毛利輝元の治療に派遣され、これを快癒させました。

文禄元年（1592年）には、朝鮮出兵のため秀吉に従い名護屋城へ赴きましたが、朝鮮に渡った輝元が再び病に倒れたため、治療のために渡海し、翌年帰国しました。帰国後は豊臣秀次の診療にもあたりました。文禄4年（1595年）には、自らが治療した秀次が切腹したことに伴い、玄朔も常陸国へ送られ、佐竹義宣預かりとなりました。

慶長2年から3年の間には、豊臣秀頼の番医として復権しています。赦免されて帰洛後、秀頼に再出仕するまでの間には、診療活動を停止していた時期がありました。また、豊臣秀吉の最期の治療にもあたっていたことが確認されています。

後陽成天皇の治療のために、慶長3年9月1日には勅旨をもって罪を赦免され、京都に戻ったとされていましたが、近年の研究により、天皇の診療以前に玄朔は赦免され、秀頼の番医として復権し、秀吉の診療にも加わっていたことが明らかになっています。

秀吉の死後は、後陽成天皇の治療のために皇室へも再出仕することになりました。慶長13年（1608年）には、徳川秀忠の療養のために江戸に招かれ、邸宅を与えられました。この頃、玄朔は2代目道三を襲名しており、この邸宅の北側の入り堀は道三堀と呼ばれました。以来、京都と江戸を往復し、朝廷と幕府の典医として仕えました。

寛永8年（1631年）、玄朔は83歳でその生涯を閉じました。

秀次事件を契機に、曲直瀬一門の結束は施薬院全宗を頂点に強化され、徳川幕藩体制の確立過程で、玄朔を中心に構成された奥医師の下、道三流の医師が医療界を主導していく要因となりました。

門下

玄朔の門下からは、岡本玄冶、井上玄徹、野間玄琢、内田宗春、山脇玄心、井関玄悦、長沢道寿、奈須恒昌、古林見宣、響庭東庵、畠山景吉など、多くの著名な医師が輩出されました。

参考文献

富士川游『日本医学史』日新書院、1941年。
服部敏良『室町安土桃山時代医学史の研究』吉川弘文館、1971年。
矢数道明「日本医学中興の祖曲直瀬道三」『漢方の臨床』9巻10号、1962年。
宮本義己「曲直瀬道三と数奇大名毛利輝元の交友」『淡交』385号、1979年。
宮本義己「近世初期の名医 曲直瀬玄朔の人物と業績」『医学選枠』32号、1983年。
宮本義己「豊臣政権の番医―秀次事件における番医の連座とその動向―」『国史学』133号、1987年。

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