得業士

得業士（とくぎょうし）

得業士とは、かつて日本の旧制高等学校や旧制専門学校において授与されていた称号です。また、ドイツにおける大学卒業者の学位であるディプローム (Diplom) の日本語訳としても用いられます。

日本の得業士

日本の得業士号は、1872年（明治5年）の学制において、博士号、学士号とともに官立学校教員の称号として誕生しました。1878年（明治11年）には東京大学に学位授与権が付与され、得業士号を学位とすることが認められましたが、実際には適用されませんでした。その後、1887年（明治20年）に学位令が制定されたことで、学位としての得業士は廃止されることとなりました。

1894年（明治27年）の（第1次）高等学校令により、高等中学校から転換された（旧制）高等学校には、医学・法学・工学の4年制専門学部が存在し、これらの学部を卒業した者には「〇〇得業士」という称号が与えられました。専門学部が全て独立し、旧制専門学校となった後も、得業士の称号が授与されるケースがありました。

さらに、1918年（大正7年）制定の（第二次）高等学校令第9条2項には、「専攻科を卒業した者は得業士と称することができる」と規定されました。これにより、高等学校高等科（通常学修年限3年）を卒業後、さらに1年以上の学修年限を有する専攻科を修了した者に、称号として得業士が授与されることとなりました。ただし、当時の高等学校は主に帝国大学の予備教育機関としての役割を担っており、専攻科が設けられることは稀で、この規定はほとんど活用されませんでした。

その後、旧制高校とは別に設立された旧制専門学校、特に医学専門学校の卒業生などにも得業士の称号が与えられるようになりました。医専卒業生には医学得業士、官立東京高等歯科医学校の卒業生には歯科得業士の称号が授与されました。これは、医専・歯専の学修期間（4年または5年）が高等学校3年＋専攻科1年以上と同等以上とみなされたためです。

これらの学校では、卒業見込み者から「得業士称号認可願」の書類を審査し、合格した者に卒業と同時に称号の授与が認可されました。得業士は、旧制大学が授与した学士よりも下位に位置づけられていました。

戦後の学制改革により、得業士の称号は廃止されました。旧制専門学校から昇格した新制大学では、卒業者が学士の称号を名乗れるように制度が変更され、1991年7月以降は学士号を授与するようになりました。大学設置基準を満たせずに新制大学への昇格を果たせなかった旧制専門学校は短期大学へと転換しましたが、1964年まで暫定的な制度であったため、卒業生への称号は与えられませんでした。短期大学卒業者向けの準学士の称号が創設されたのは1991年、短期大学士の学位が創設されたのは2005年です。また、1994年には2年制専門学校修了者向けの専門士の称号が創設されています。なお、短期大学、高専、2年制専門学校と新卒年齢を同じくする新制高等学校の2年制専攻科には、2020年現在、準学士や専門士に相当する称号は設定されていません。

ドイツの得業士

ドイツにおけるディプローム (Diplom) の学位は、得業士と訳されます。ディプロームの学位を取得するには、大学学部前期2年の4セメスター修了時に予備試験、そして最低4年の8セメスター修了時に得業士試験に合格する必要があります。さらに、その後2年間の研究と博士試験を経て、博士 (ドクター) の学位を取得できるという独自の制度を採用していました。

しかし、国際化の進展に伴い、独自の学位制度が不便であるという意見も出るようになり、ボローニャ・プロセスを契機に、学士と修士の二段階からなる英米式の学位制度も導入されるようになりました。

脚注

参考文献

相賀徹夫編著『日本大百科全書 5』(小学館、1985年) ISBN 409526005X

関連項目

副学士 (香港)
名誉博士
高等学校
大学
大学院
ディプロマ
法学ディプローム

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