御匣殿別当

御匣殿別当について

御匣殿別当（みくしげとののべっとう）は、平安時代中期から院政期にかけて存在した後宮における女性の官職です。御匣殿とは、天皇に関連する衣服を管理し、裁縫などの業務を行うために設立された機関です。この機関は、後宮の十二司が崩壊した後、10世紀初頭に内蔵寮から分かれて設立されました。

御匣殿の役割と変遷

当初、御匣殿は貞観殿内に位置し、天皇の衣服を主に担当していました。別当はその長官として、天皇に近い位置に立ち、高い地位を享受していました。そのため、次第に侍妾としての役割を果たすことも多く、尚侍に任命される前段階としてこの職務に就くこともありました。しかし、時代が進むにつれてこの役職は形骸化し、摂関の娘たちが任命されることが主流となり、院政期にはその任命が行われなくなりました。実務は命婦が行うようになり、御匣殿の機能も変化を余儀なくされました。

文献に見る御匣殿別当

『源氏物語』の中では、朧月夜が尚侍の前に御匣殿別当に任命されるシーンも見られ、この役職の重要性がうかがえます。また、東宮や后・女院に対しても別当が任じられることがありました。内裏の別当が廃止された後も、后や女院の御匣殿別当は長く存在し、鎌倉時代末まで続いていました。この役職に就く女性は、主に主人の近親者や公卿の娘たちでした。

歴史的な事例

御匣殿別当の任命について確認できる史料として、重明親王の日記『吏部王記』の承平元年（931年）4月26日付が挙げられます。この記録には、関白藤原忠平の娘である藤原貴子がこの役職に任命されたことが記されています。貴子はその後尚侍として仕えました。この他にも、藤原超子や藤原尊子といった多くの著名な女性たちが御匣殿別当の役職に就いており、その中には特異な例として公卿の娘でない女性が女御に昇進したケースも見られます。

例えば、藤原超子は安和元年（968年）に御匣殿別当として冷泉[[天皇]]に入内し、その後女御になりました。このように、御匣殿別当を経て女御になった女性たちは数多くおり、彼女たちの血筋が後の権力構図に影響を与えることもありました。

また、藤原道長の女、藤原威子は長和元年（1012年）に尚侍に補任され、その後御匣殿別当を兼任し、女御、中宮にまで昇進しました。彼女の事例は、御匣殿別当から昇格したことを証明する明確な例であり、当時の女官制度の流動性を示しています。

結論

御匣殿別当は、権力と女性の地位の変遷を象徴する職業であり、その役割は時代の流れとともに変化していきました。平安時代の女性たちの権力を握る一環として、この職業が持つ意味は今も研究者たちの興味を引き続けています。

もう一度検索