心の瞳 (坂本九の曲)

心の瞳：坂本九さんの愛と絆の物語

1985年、坂本九さんの遺作となった「心の瞳」。作詞は荒木とよひさ、作曲は三木たかしという、当時テレサ・テンらのヒット曲も手掛けたコンビによる作品です。編曲は、坂本九さんの多くの楽曲を手掛けた川口真氏が担当しました。

この曲は、シングル「懐しきlove-song」のB面として発売されましたが、その深い歌詞とメロディーは、多くの人の心に深く刻まれることになります。坂本九さんの妻である柏木由紀子さんによると、「心の瞳」は愛の歌であり、そのテーマは長年連れ添った夫婦や家族の絆なのだそうです。長女である大島花子さんも、この曲を家族で聴いた楽しい思い出を語っています。

誕生秘話：時代と家族への思い

当時、シンガーソングライター全盛期を迎えていた日本の音楽シーンにおいて、大スターであった坂本九さんにとっても、職業作家が作った曲を歌うスタイルは容易ではありませんでした。東芝EMI所属時代には新曲の発表が減っていたという状況の中、坂本九さんは家族を拠り所としながら、新たな音楽の道を模索していました。

そんな中、ファンハウス移籍を機に、荒木とよひさ氏、三木たかし氏との出会いがありました。同世代の4人は意気投合し、「心の瞳」は、ヒットを意識することなく、坂本九さんから妻への素直な愛情を表現する曲として誕生しました。レコーディング後、坂本九さんはこの曲を妻に聴かせ、「ぼくたちのことを歌ったような曲だよ！」と語ったというエピソードは、この曲への強い思い入れを感じさせます。音楽評論家の田家秀樹氏は、「『心の瞳』は、坂本九さんがようやく手にした理想の音楽だったに違いない」と評しています。

合唱曲としての広がり：奇跡の伝播

坂本九さんの死後、ある中学校の音楽教師である長谷川剛氏は、坂本九さんの生前最後のラジオ番組で「心の瞳」を聴きます。当時、校内暴力や不登校といった問題を抱えていた学校で、生徒が歌を歌わないことに悩んでいた長谷川氏は、「歌に不思議な力がある」と感じ、「心の瞳」を合唱曲として編曲しました。生徒たちは熱心に歌い、卒業式でも歌われたこの合唱曲は、保護者を通じて柏木由紀子さんのもとへ届きます。柏木さんはこの感動的な出来事に感謝の手紙を送り、それがきっかけで、「心の瞳」は近隣の学校へと広がっていきました。

その後、「心の瞳」は多くの音楽家によって編曲され、中学校の音楽教科書にも掲載されるようになります。ある学校からは、「坂本九の人生、夫婦愛、家族愛を道徳の授業で扱っています」という手紙が届いたというエピソードも、この曲の持つ普遍的な価値を示しています。

家族による継承：愛は永遠に

坂本九さんの妻と娘たちである柏木由紀子、大島花子、舞坂ゆき子さんは、「maman et ses filles」名義で「心の瞳」を収録したミニアルバムをリリースし、コンサートでもこの曲を歌い継いでいます。毎年クリスマスに行われるコンサートでは、坂本九さんの歌声と重なるコーラスが、聴く者の心に深い感動を与えます。2017年には、ファンハウス代表取締役の新田和長氏がプロデューサーとなり、坂本九さんの三十三回忌を期して、家族のコーラスが入った「心の瞳」がリリースされました。新田氏は、家族のコーラスが、坂本九さんの歌声をより幸せな響きにしていることに感銘を受けています。

多くのアーティストによるカバー：時代を超えた名曲

「心の瞳」は、多くのアーティストによってカバーされ続けています。その中には、一路真輝、タンポポ児童合唱団、北田康広、杏、夏川りみ、つるの剛士、エンレイ、そして石丸幹二など、世代を超えたアーティストたちが名を連ねています。様々なアレンジが施されたこれらのカバーソングからも、「心の瞳」が持つ普遍的な魅力と、時代を超えて愛され続ける力を感じることができます。

「心の瞳」は、単なる歌ではなく、坂本九さんご自身の生き様、そして家族愛の物語そのものです。この曲はこれからも、多くの人の心に響き渡り続けることでしょう。

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