必須脂肪酸

必須脂肪酸

必須脂肪酸とは、体内で合成することができないため、食事から摂取する必要がある脂肪酸のことです。ヒトを含む多くの動物にとって、ω-6脂肪酸であるリノール酸、ω-3脂肪酸であるα-リノレン酸が必須脂肪酸として知られています。これらの脂肪酸は、体内でさまざまな物質に変換され、正常な生理機能を維持するために重要な役割を果たします。

発見の歴史

20世紀前半までは、食物中の脂肪は必須栄養素とは考えられていませんでした。1929年にジョージ・オズワルド・バーによって、リノール酸がラットの欠乏症を回復させることが報告され、必須栄養素として認識されるようになりました。その後、ヒトでの研究も進み、1970年代にはリノール酸がヒトにとっても必須栄養素であることが明らかになりました。

α-リノレン酸も1931年にバーによって必須[脂肪]]酸である可能性が示唆されましたが、リノール酸との競合関係などから、長い間確実とはみなされませんでした。しかし、DHAの発見やα-リノレン酸からDHAへの代謝経路の解明、DHAの神経伝達における重要性の認識などを経て、1978年に[[世界保健機関]と[国際連合食糧農業機関]がα-リノレン酸の必須性を確定しました。

1970年代後半には、DHAやEPAを豊富に含む魚油を摂取するイヌイットに心筋梗塞の発生率が低いことが報告され、ω-3脂肪酸への関心が高まりました。当初はEPAの血栓抑制効果に注目が集まりましたが、その後、神経系への影響や乳児の視力・認知機能への影響など、DHAの重要性が明らかになり、ω-3脂肪酸が不可欠な栄養素として確立されました。

生化学

ヒトを含む動物は、体内で脂肪酸の不飽和化や鎖長延長を行うことができますが、リノール酸とα-リノレン酸を合成する酵素を持っていません。そのため、これらの脂肪酸は食事から摂取する必要があります。

ω-9脂肪酸は体内で合成できるため、必須脂肪酸ではありません。植物や微[[生物]]は、ω-6位やω-3位に二重結合を導入する酵素を持っているため、リノール酸やα-リノレン酸を合成することができます。

必要摂取量

必須脂肪酸の必要量は、全カロリーの3～4%程度とわずかです。国際的な脂質評価機関であるISSFALは、1日あたりの摂取量として、リノール酸を全カロリーの2%、α-リノレン酸を0.7%、EPAとDHAを合計で最低500mgと推奨しています。

[世界保健機関]は、ω-6脂肪酸を5-8%、ω-3脂肪酸を1-2%と目標範囲を示しています。

α-リノレン酸からEPAやDHAへの変換効率には個人差があり、特に女性の方が高いことが知られています。完全菜食主義者の場合、血清中のEPAやDHA濃度は低い傾向にありますが、赤血球中のDHA量は比較的高いことが報告されています。

バランス

ω-6脂肪酸の摂取が増えると、炎症や血液凝固を促進するアラキドン酸の合成が促進されます。一方、ω-3脂肪酸の摂取が増えると、抗炎症作用のあるDHAが増加します。

リノール酸とα-リノレン酸は同じ酵素によって代謝されるため、ω-6とω-3の比率が重要です。ω-6に対するω-3の比率が高すぎると、心血管疾患、骨粗鬆症、炎症性疾患、自己免疫疾患などのリスクが高まる可能性があります。

現代の食生活では、ω-6脂肪酸の摂取量が多くなりがちです。バランスの良い食事を心がけ、ω-3脂肪酸を積極的に摂取することが大切です。

バランスに対する食事要因

食生活の欧米化により、ω-6脂肪酸の割合が高くなる傾向にあります。ω-3脂肪酸が豊富な魚介類を積極的に摂取するよう心がけましょう。

食物中の必須脂肪酸

植物油にはリノール酸が豊富に含まれていますが、α-リノレン酸の含有量は少ないものが多いです。エゴマ油、アマニ油、キャノーラ油、大豆油などは、比較的α-リノレン酸を多く含んでいます。魚油、肝油、イワシ、サバ、サケなどの魚介類は、EPAやDHAなどのω-3脂肪酸を豊富に含んでいます。また、近年では藻類由来のDHAサプリメントも利用可能です。

動物性[[脂肪]]にもα-リノレン酸が含まれています。牧草を飼料とする放牧牛や羊の肉は、穀物を飼料とする肉に比べて、α-リノレン酸の含有量が多い傾向にあります。

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