志村正雄

志村正雄：アメリカ文学研究の巨星

志村正雄（1929年9月25日 - 2022年4月24日）は、20世紀アメリカ文学を専門とする、日本を代表するアメリカ文学者の一人です。東京外国語大学名誉教授、鶴見大学名誉教授という肩書からもわかるように、長年にわたり教育者としても多くの人材を育成しました。

生涯と業績

東京府豊多摩郡渋谷町（現在の東京都渋谷区広尾）に生まれた志村は、評論家のマークス寿子を実妹に持ちます。1953年に東京外国語大学外国語学部英米語学科を卒業後、アメリカに渡り、1962年にはニューヨーク大学大学院英米科修士課程を修了しました。その後、コロンビア大学やインディアナ大学で教鞭をとり、1967年に帰国。鶴見女子大学助教授、横浜市立大学助教授を経て、1972年からは東京外国語大学で教鞭を執り、1974年に教授に就任しました。1993年に定年退官し、名誉教授となると同時に、鶴見大学教授に就任。2000年に退職後も名誉教授として、後進の指導に当たりました。2009年には、長年の教育研究における功績が認められ、瑞宝中綬章を受章しました。2022年4月24日、92歳でその生涯を閉じました。

アメリカ文学研究における貢献

志村の専門は、20世紀アメリカ文学の中でも特に、トマス・ピンチョンやジョン・バースといった、実験的な作風で知られる作家たちでした。これらの作家の難解な作品を翻訳し、日本に紹介した功績は非常に大きいと言えるでしょう。特に、ピンチョンの『競売ナンバー49の叫び』や『スロー・ラーナー』、バースの『旅路の果て』や『サバティカル あるロマンス』などの翻訳は、日本におけるピンチョンやバースの研究の基礎となりました。

また、翻訳だけでなく、アメリカ文学に関する評論や研究書も多数発表しており、アメリカ文学の理解を深める上で重要な役割を果たしました。著書には、『神秘主義とアメリカ文学 自然・虚心・共感』、『アメリカ文学探訪』などがあり、アメリカ文学の多様な側面を考察しています。さらに、詩集『から / へ』や、映画と文学の関係を論じた『映画・文学・アメリカン』など、その知的な関心の幅広さを示す作品も残しています。

多岐にわたる活動

志村は、翻訳者、研究者としてだけでなく、教育者としても多くの学生を指導しました。東京外国語大学や鶴見大学で教鞭を執り、次世代の文学研究者を育てました。また、加島祥造との共著『翻訳再入門 エッセイと対談』では、翻訳の奥深さについて語り、翻訳論においても貢献しました。

主要な著作と翻訳

著書

『から / へ 詩集』（書肆山田） 1993
『神秘主義とアメリカ文学 自然・虚心・共感』（研究社出版） 1998
『アメリカ文学探訪』（日本放送出版協会） 2003 - 2004
『映画・文学・アメリカン』（松柏社） 2015

共著

『アメリカの文学』（八木敏雄共著、南雲堂） 1983
『翻訳再入門 エッセイと対談』（加島祥造共著、南雲堂） 1992

翻訳

『呪い』（テネシー・ウィリアムズ、河野一郎共訳、白水社） 1972
『現代アメリカ幻想小説』（編共訳、白水社） 1973
『ウィーランド』（チャールズ・ブロックデン・ブラウン、国書刊行会） 1976
『意識の進化と神秘主義 科学文明を超えて』（セオドア・ローザク、紀伊国屋書店） 1978
『フォークナー全集24 短篇集1』（ウィリアム・フォークナー、冨山房） 1981
『ジャズ・イズ』（ナット・ヘントフ、白水社） 1982
『競売ナンバー49の叫び』（トマス・ピンチョン、サンリオ文庫） 1985
『スロー・ラーナー』（トマス・ピンチョン、筑摩書房） 1988
『ファウスト博士の明るい灯り』（ガートルード・スタイン、書肆山田） 1992
『旅路の果て』（ジョン・バース、白水社） 1972
『金曜日の本 エッセイとその他のノンフィクション』（ジョン・バース、筑摩書房） 1989
『サバティカル あるロマンス』（ジョン・バース、筑摩書房） 1994
『船乗りサムボディ最後の船旅』（ジョン・バース、講談社） 1995
『ストーリーを続けよう』（ジョン・バース、みすず書房） 2003
『米国ゴシック作品集』（ジェイムズ・メリル他、国書刊行会） 1982
『イーフレイムの書』（ジェイムズ・メリル、書肆山田） 2000
『ミラベルの数の書』（ジェイムズ・メリル、書肆山田） 2005
『ページェントの台本』（ジェイムズ・メリル、書肆山田） 2008



志村正雄は、その深い知識と幅広い関心、そして卓越した翻訳能力で、アメリカ文学研究の発展に大きく貢献しました。彼の業績は、今後も多くの人々に影響を与え続けるでしょう。

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