応天門の変

応天門の変とは

応天門の変は、平安時代前期の貞観8年（866年）に発生した政治事件です。この事件は、応天門が放火されたことから始まり、大納言であった伴善男が左大臣の源信を犯人として告発しましたが、最終的には伴善男自身が犯人として処罰されるという劇的な展開を迎えました。この事件は、藤原氏による他氏排斥の象徴的な出来事として歴史に刻まれています。

事件の背景

当時、朝廷内では藤原氏が勢力を拡大しており、伴氏を含む他の有力貴族との間で権力闘争が繰り広げられていました。伴善男は、左大臣の源信と不仲であり、源信を失脚させ、その後任の左大臣の地位を右大臣の藤原良相が昇進することを望んでいました。そして、自らが右大臣に任ぜられることを目論んでいたとも言われています。

貞観6年（864年）には、伴善男は源信に謀反の噂があると訴えましたが、これは取り上げられませんでした。このことが、後の応天門の変へと繋がる伏線となったと考えられます。

事件の発生と初期の混乱

貞観8年閏3月10日（866年4月28日）、応天門が何者かによって放火され、炎上するという事件が発生しました。応天門は、伴氏（大伴氏）が造営したものであり、伴善男はこれを源信が伴氏を呪って火をつけたものとして、右大臣の藤原良相に告発しました。

これを受けて、藤原良相は源信を捕縛するために兵を出し、源信の邸を包囲しました。源信家の人々は絶望し、嘆き悲しんだとされています。しかし、参議の藤原基経がこの状況を父である太政大臣の藤原良房に伝えると、良房は清和天皇に進言し、源信を弁護しました。結果として、源信は無実とされ、包囲していた兵は引き上げることになりました。

伴氏父子の逮捕と処罰

事件はここで終わりませんでした。8月3日、備中権史生の大宅鷹取が、応天門放火の犯人は伴善男とその子である伴中庸であると訴え出ました。鷹取は、応天門の前から伴善男、伴中庸、そして雑色の紀豊城の3人が走り去ったのを目撃し、その直後に門が炎上したと証言しました。

この告発を受けて、朝廷は伴善男の取り調べを開始しました。当初、伴善男は容疑を否認しましたが、最終的には、伴中庸が犯行を自供したことや、伴善男自身が自白したとされ、9月22日に伴善男、伴中庸、紀豊城らが死罪（後に流罪に変更）となりました。この事件により、古代からの名族であった伴氏は没落することとなりました。

事件の真相と影響

応天門の変は、藤原氏による他氏排斥の陰謀であるという見方が一般的です。事件後、藤原良房は摂政となり、藤原氏の勢力をさらに拡大しました。しかし、事件の真相については、伴中庸が単独で犯行に及んだとする説や、伴善男も無実であったとする説など、様々な見解があります。

この事件は、国宝『伴大納言絵詞』に詳しく描かれており、当時の社会情勢や事件の様子を知る上で貴重な資料となっています。また、この事件は、平安時代の政治史における重要な転換点となり、その後の藤原氏の隆盛に大きな影響を与えたと考えられています。

事件で処罰された人物

伴善男（伊豆国へ流罪）
伴中庸（隠岐国へ流罪）
紀豊城（安房国へ流罪）
伴秋実（壱岐国へ流罪）
* 伴清縄（佐渡国へ流罪）

また、首謀者の親族8名も連座して流罪となりました。

まとめ

応天門の変は、平安時代初期における権力闘争が激化する中で発生した事件であり、藤原氏の勢力拡大と他氏の没落をもたらしました。この事件は、古代の政治史を理解する上で非常に重要な出来事であり、現在でも様々な角度から研究が進められています。

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