伴善男

伴善男（とものよしお）

伴善男は、平安時代初期に活躍した公卿です。弘仁2年（811年）に生まれ、貞観10年（868年）に没しました。参議・伴国道の五男として生まれ、最終的には正三位・大納言にまで昇りつめ、「伴大納言」と呼ばれました。

生い立ちと初期のキャリア

伴善男の生誕地については諸説あり、父・国道の佐渡国配流中に生まれたという説、京で生まれたという説、あるいは佐渡の郡司の従者で後に伴氏の養子になったという説があります。大伴氏は、弘仁14年（823年）に淳和天皇（大伴親王）が即位した際、避諱のために伴氏と改姓しています。

天長7年（830年）に校書殿の官人に任じられ、仁明天皇に近侍するようになると、次第にその才能を認められ、重用されるようになりました。承和8年（841年）には大内記、承和9年（842年）には蔵人兼式部大丞を歴任し、承和10年（843年）には従五位下・右少弁兼讃岐権守に叙任されました。

訴訟事件と昇進

承和13年（846年）には、善愷訴訟事件において、当時の事務慣例に沿った訴訟の取り扱いが律令に反するとして、左大弁・正躬王を始めとする同僚の弁官全員を弾劾し、失脚させるという大胆な行動に出ました。さらに、かつて大伴家持が所有し、藤原種継暗殺事件に関与したとして没収されていた加賀国の水田について、家持が既に赦免されているにも関わらず返還されないのは不当であると主張し、強引に返還させました。

これらの出来事以降、伴善男は急速に昇進を重ね、承和14年（847年）には従五位上・蔵人頭兼右中弁、翌嘉祥元年（848年）には従四位下・参議兼右大弁に叙任され、公卿の仲間入りを果たしました。仁明天皇の時代には、議政官として右衛門督・検非違使別当・式部大輔などを兼任しました。また、山崎橋の修復のために派遣された安倍安仁・源弘にも同行しています。

嘉祥3年（850年）に文徳天皇が即位すると、従四位上に昇叙し、その後も仁寿3年（853年）に正四位下、斉衡元年（855年）に従三位へと順調に昇進しました。この間、皇太后宮大夫・中宮大夫を兼任し、右大臣・藤原良房らとともに『続日本後紀』の編纂にも携わっています。

清和天皇の時代に入っても、貞観元年（859年）に正三位、貞観2年（860年）には中納言、貞観6年（864年）には大納言にまで昇りつめました。伴氏（大伴氏）から大納言に任官したのは、天平2年（730年）の大伴旅人以来、約130年ぶりのことでした。

応天門の変と失脚

しかし、貞観8年（866年）に起こった応天門の放火事件をきっかけに、伴善男は転落の道を辿ります。事件発生時、善男は左大臣・源信が犯人であると告発しましたが、太政大臣・藤原良房の奏上により源信は無実とされました。その後、応天門の放火は善男とその子である中庸らの陰謀であるとする密告があり、拷問を受けた末、善男は犯人として断罪されました。死罪と宣告されましたが、仁明天皇への忠節を理由に罪一等を減じられ、流罪となりました。善男は伊豆国へ、中庸は隠岐国へ流され、この事件により、伴氏や紀氏らの多くが流罪に処せられました。

配流後の伴善男の消息は定かではありませんが、貞観10年（868年）に配所の伊豆で死去したと伝えられています。

人物像

伴善男は、生まれつき人品が優れていた一方で、狡猾で「黠児（わるがしこい男）」と呼ばれていました。また、傲慢で人に打ち解けず、弁舌は達者で明察果断、政務に通じていましたが、寛容さや高雅さには欠け、冷酷な性格だったと評されています。容貌は、眼窩が深くくぼみ、もみあげが長く、体躯は矮小であったとされています。

官歴

時期不詳：正六位上
天長7年（830年）：校書殿官人
承和8年（841年）：大内記
承和9年（842年）：蔵人、式部大丞
承和10年（843年）：従五位下、讃岐権介、右少弁
承和14年（847年）：従五位上、蔵人頭、右中弁
承和15年（848年）：従四位下、参議、班河内和泉田使長官、右大弁
嘉祥2年（849年）：下野守、右衛門督、検非違使別当、式部大輔
嘉祥3年（850年）：装束司、従四位上、皇太后宮大夫
嘉祥4年（851年）：美作守
仁寿2年（853年）：検非違使別当停任、式部大輔
仁寿3年（853年）：正四位下、中宮大夫
斉衡1年（854年）：讃岐守、中宮大夫、式部大輔
斉衡2年（855年）：従三位
天安2年（858年）：装束司、皇太后宮大夫
天安3年（859年）：伊予権守、正三位、民部卿
貞観2年（860年）：中納言
貞観6年（864年）：大納言、皇太后宮大夫、民部卿
貞観8年（866年）：遠流（伊豆国）

系譜

父：伴国道
母：不詳
子女：伴中庸、伴善魚、伴善足

伊豆市吉奈の善名寺には、背銘に「伴氏二親生霊 善魚 善足」と刻まれた仏像があり、「石井系図」には善魚と善足が善男の子であると記されています。子孫は伊豆国の国司である大掾や掾になり、伊豆に土着して国衙に勤務する官人になったと推定されています。

関連作品

伴大納言絵詞
倭仮名在業系図：浄瑠璃、歌舞伎の演目。「蘭平（らんぺい）」こと伴義雄は伴善男がモデル
* 相撲

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