藤原良相

藤原良相（ふじわら の よしみ/よしあう/よしすけ）は、平安時代初期から前期にかけて活躍した公卿です。藤原北家、左大臣・藤原冬嗣の五男として生まれました。官位は正二位・右大臣にまで昇り、贈正一位を追贈されています。西三条大臣と号し、文徳天皇の外叔父にあたります。

若き日の才能と昇進

若い頃から学問に励み、特に弁舌の才に秀でていました。承和元年（834年）には仁明天皇に召し出され、蔵人兼右兵衛権大尉として天皇の側近に仕えます。その後、順調に昇進を重ね、承和5年（838年）に従五位下に叙爵、翌年には内蔵頭に任じられました。武官としても活躍し、左近衛少将、左近衛中将などを歴任しました。承和9年（842年）の承和の変では、近衛兵を率いて皇太子・恒貞親王の座所を包囲する重要な役割を担いました。承和15年（848年）には参議となり、公卿の仲間入りを果たします。

文徳朝での活躍

嘉祥3年（850年）、甥である皇太子・道康親王（文徳天皇）が即位すると、正四位下に叙され、新皇太子・惟仁親王の春宮大夫に任じられました。左右大弁を経て、仁寿元年（851年）には兄である長良を飛び越えて権中納言に昇進。その後も急速に昇進し、仁寿4年（854年）には大納言兼右近衛大将となりました。天安元年（857年）には、兄である良房が太政大臣に昇進した後、右大臣に就任し、天安3年（859年）には正二位に至りました。

清和朝での政治活動

清和朝に入ると、『類聚三代格』に掲載される多くの格で上卿を務め、重要な政務に心血を注ぎました。特に貞観年間初頭には、中納言兼民部卿・伴善男とともに太政官政治を牽引しました。良相が関わった主な政治的動きとしては、以下のものがあります。

貞観元年（859年）：生活のために山川を利用するのを妨げない目的で、鳥類捕獲のための鷹の飼育を禁止しました。
貞観4年（862年）：畿内における租税体系（官稲出挙・徭役）の変更を実施し、租税収取の円滑化と財源確保を図りました。この政策は、良相と伴善男が立案者であるとされています。
口分田の納租を倍増し、雑色田の納租を増やすとともに、京戸の徭を免除し、畿内の徭を軽減しました。また、出挙を一部廃止しました。
貞観4年（862年）：参議以上の官職にある者に対して、政治に関する議論を促す詔勅が出されました。この際、良相は右大弁・南淵年名ら、参議以外の者も意見を述べるべきだと推薦しました。

藤原良房との関係と応天門の変

貞観6年（864年）には、清和天皇の元服に合わせて娘の多美子を入内させ、女御としました。これにより、皇子が誕生すれば良相は天皇の外祖父となり、太政大臣である兄・藤原良房の後を継ぐ可能性が出てきました。当時、良房と良相の関係は必ずしも良好ではなく、良房は良相を警戒していたとも言われています。しかし、良相が独断で源信を逮捕しようとしたことが良房の反発を買い、結果として良房が摂政に就任し、良相は政治的影響力を失うことになります。

貞観8年（866年）には、良相の邸宅で大規模な花見の宴が開催されました。しかし、その直後に応天門が焼失する事件が発生。良相は伴善男の謀略に加担したとして源信を逮捕しようとしましたが、良房の介入により失敗に終わります。その後、伴善男が犯人として告発され、流罪となりました。応天門の変は、良相と伴善男による太政官の指導体制が崩壊するきっかけとなりました。

失脚と死

応天門の変後も良相は失脚はしませんでしたが、以前のような政治的影響力を失いました。貞観9年（867年）に致仕を願い出て、左近衛大将を辞任。同年10月に亡くなり、享年55歳。死後、正一位を追贈されました。遺言により、薄葬で葬られたと伝えられています。

人物像

幼少の頃から度量が広く、傑出した人物であったと評されています。仏教への信仰心が篤く、臨終の際には極楽往生を信じて疑わなかったと言います。また、長年肉食をせず、粗食を続けたため非常に痩せていたとされています。

文化人としての側面

良相は文化人としても知られ、邸宅跡からは平仮名が墨書された土器が発掘されています。この発見は、当時の貴族階級における平仮名の広まりを示す貴重な資料となっています。また、良相は文学の士を愛好し、貧しい学生を援助したり、漢詩が得意な学生に褒美を与えたりしたとされています。

逸話

仁明天皇が試薬を試飲させた際、誰もが躊躇する中で、良相は躊躇なく全てを飲み干し、その忠義を天皇に称賛された。
仏教の典籍を深く学び、真言に通じていた。室が没した後、欲望を捨てて念仏に励み、後室を娶らなかった。
勧学院の南側に延命院を建てて一族の学生を養い、また、六条の邸宅を崇親院と名付け、一族の子女を養った。
おとぎ話「一寸法師」に登場する「三条大臣殿」は、藤原良相のことであるという説がある。
藤原氏の学問所である勧学院と療養施設である延命院の守護社として、武信稲荷神社を創祀した。
かつて、学生であった小野篁の罪を弁護したことがあり、後に良相が地獄に落ちた際に、閻魔大王宮で裁判を手伝っていた篁の執り成しにより、冥界から帰還できたという。

子孫

良相には9人の子女がおり、長男の常行は順調に出世し、大納言にまで昇りましたが、若くして亡くなりました。良相の子孫からは、その後公卿を出すことができず、『大鏡』ではその不振ぶりが語られています。しかし、直方・忠方は才能と品行を称えられ、特に忠方は書道に優れていたとされています。また、同母兄の良房・長良は天皇の外祖父となりましたが、良相の娘たちは天皇の女御とはなったものの、皇子を産むことはありませんでした。

藤原良相は、その卓越した才能と政治手腕で平安時代初期の政治を動かし、文化人としてもその名を知られています。彼の生涯は、当時の貴族社会における権力闘争や文化の発展を語る上で重要な要素となっています。

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