怪奇談絵詞

『怪奇談絵詞（かいきだんえことば）』は、作者・製作時期ともに不詳ながら、幕末から明治時代初期にかけて制作されたと推測される日本の妖怪絵巻です。福岡市博物館に所蔵されており、全33点の怪奇譚が描かれています。

この絵巻の特筆すべき点は、その独創的な妖怪表現にあります。「ヲロシヤの人魂」「イギリスの蟻」「カピタンの螻蜓」など、当時の人々が抱いていた異国へのイメージを反映した、風刺的な妖怪が多く見られることです。これらの妖怪は、ロシアやイギリスといった国々を揶揄し、当時の国際情勢や社会情勢を風刺的に表現したものと考えられています。

また、強欲な僧侶を風刺した「虎にゃあにゃあ」や、江戸幕府が鋳造した天保通宝を題材にした「ちょうせん一賈婦人」など、社会風刺を込めた妖怪も存在します。さらに、伝承や空想上の妖怪だけでなく、身体的な特徴を持つ人々を描いた「大きな陰嚢」や「提灯男」、当時珍しかった動物を妖怪視した「鐘崎浦の珍獣」（アザラシまたはオットセイを描いたもの）など、多様な題材が扱われている点も特徴です。

収録されている怪奇譚は日本各地に由来しますが、筑前、肥前、福岡など、九州地方の話が多いことから、この絵巻が九州地方と何らかの関わりがあるという指摘も存在します。しかしながら、類似の絵巻が確認されていないため、これらの怪奇譚がどのようなコンセプトに基づいて選ばれたのか、その全体像は未だ解明されていません。

『怪奇談絵詞』は、妖怪というフィルターを通して、当時の社会や文化、人々の価値観を垣間見ることができる貴重な資料です。風刺とユーモアに満ちた妖怪たちの姿は、現代の私たちにも様々なインスピレーションを与えてくれるでしょう。

参考文献
湯本豪一編著『妖怪百物語絵巻』国書刊行会、2003年。ISBN 978-4-336-04547-8。

関連項目
蕪村妖怪絵巻
* 土佐お化け草紙

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