怪猫トルコ風呂

『怪猫トルコ風呂』：異色の融合が生んだカルトムービー

1975年に公開された『怪猫トルコ風呂』は、谷ナオミと大原美佐が主演を務め、山口和彦が監督した異色の日本映画です。東映東京撮影所が製作し、東映が配給を担当しました。この作品は、当時の風俗店であるトルコ風呂（現在のソープランド）を舞台に、化け猫の要素を組み込んだホラーとポルノを融合させた、他に類を見ない独特な世界観を持っています。公開当時はR18+の指定を受けましたが、後にR15+に再指定されました。

概要

本作は、公開当時、久しぶりに製作される「化け猫映画」として話題になりました。ジャンル分けが難しい幻のピンキー・ホラーとして一部でカルト的な人気を博し、長らく自主規制により封印状態にありました。しかし、映画評論家・木全公彦とシネマヴェーラ渋谷の尽力により、2006年9月に特集上映で数十年ぶりに劇場公開が実現し、以降、上映機会が増加しています。また、掛札昌裕と中島信昭による脚本も再評価され、「脚本で観る日本映画史」の一本として選ばれ、アテネ・フランセ文化センターでも上映されました。

ストーリー

物語は、売春防止法施行前夜の1958年3月31日の吉原遊郭を舞台に展開します。多くの娼婦が遊郭が個室付き浴場に変わった後も残ることを望む中、雪乃（谷ナオミ）は足を洗って内縁の夫である鹿内（室田日出男）と新生活を始めたいと考えていました。しかし、鹿内は冷酷な男で、雪乃の妹である真弓（大原美佐）を手籠めにした上、妊娠を告げる雪乃を激しく暴行し、土蔵の壁に塗り込めてしまいます。雪乃の死体を埋めた後、鹿内は背徳的な快楽に溺れます。雪乃の飼っていた黒猫から姉の失踪を知らされた真弓は、真相を探るため、雪乃が働いていた「トルコ舞姫」で働き始めます。

キャスト

雪乃：谷ナオミ
真弓：大原美佐
鹿内勇三：室田日出男
柿沼弦造：殿山泰司
柿沼歌江：真山知子
柿沼夏代：東てる美
鳥山：藤山浩二
三郎：鈴木サミ
若旦那：山城新伍
邦子：女屋実和子
令子：立野弓子
鈴代：早川リナ
花江：二松きぬえ
ミチ：沢リミ子
安江：城恵美
みどり：青山美沙
マリ：東祐理子
梨絵：須麻その子
唐沢：花田達
龍岩：沢田浩二
天野：清水照夫
松井：城春樹
客：大泉滉

スタッフ

監督：山口和彦
脚本：掛札昌裕、中島信昭
企画：高村賢治
撮影：飯村雅彦
美術：北川弘
音楽：馬場浩（深町純）
編集：田中修
録音：長井修堂
照明：川崎保之丞
* 助監督：澤井信一郎

製作の背景

企画は、当時の東映社長である岡田茂が発案しました。岡田は、現代の風俗であるトルコ風呂にオカルトの要素を取り込み、従来のポルノ映画とは異なる作品を目指しました。本作は、東映ポルノの再開第一作として位置づけられています。当時、日活ロマンポルノの勢いに押されていた東映は、1974年にポルノ映画の製作を一時中止していましたが、『エマニエル夫人』の大ヒットなどを背景に、ポルノ映画製作を再開することになりました。岡田社長は「日活より見ごたえのあるエロ作品を作れ」と指示し、よりハードなエロ描写を追求する方針を打ち出しました。

脚本

脚本を担当した掛札昌裕は、当初、東宝から特撮映画の脚本を依頼されていましたが、岡田社長のアイデアに感銘を受け、『ゴジラ』の脚本を断り、本作の脚本を手がけました。第一稿は、猫が乗り移った少女の眼球を抉り出すという設定でしたが、岡田社長に「文学的すぎる」と一蹴され、大幅に書き直されることになりました。掛札自身は第一稿に強い愛着を持っており、「最高の恐怖映画になりえた」と語っています。

キャスティング

ヒロインにはSMの女王として知られる谷ナオミが起用され、妹役には新人である大原美佐が抜擢されました。大原はオーディションではなく、新宿のビルで受付嬢をしていたところをプロデューサーにスカウトされたと言われています。また、山城新伍は岡田社長からの直接オファーで出演し、室田日出男は悪役として重要な役割を担っています。

撮影と演出

撮影は、1975年の仕事始めと同時に東映東京撮影所で行われました。しかし、猫の怨霊が黒猫とされるのが一般的であるにも関わらず、山口監督の演出により白猫が登場したことは、多くの指摘を受けています。

宣伝と公開

新人である大原美佐の裸が話題となり、マスメディアに取り上げられました。1975年1月29日には、『赤線㊙地帯』、『下苅り半次郎㊙観音を探せ』との三本立てで公開されました。『赤線㊙地帯』には、当時人気の高かった宮下順子が出演し、話題性を高めました。

ソフト化

本作は、2021年にDVDが、2022年にBDが発売されました。また、BGM集は「ウルフガイ 燃えろ狼男」とのカップリングでCD化されています。

『怪猫トルコ風呂』は、その異質な内容と制作背景から、今もなお多くの映画ファンを魅了し続けています。

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