恩田民親

恩田民親：松代藩を救った改革者

恩田民親（おんだ たみちか、1717年-1762年）は、江戸時代中期、真田家が治める松代藩に仕えた家老です。通称は靱負（ゆきなえ）、百官名は木工で、恩田木工（おんだもく）として知られています。

信濃国松代（現在の長野県長野市松代町）で、松代藩家老・恩田民清の長男として誕生しました。1735年、家督を相続し、1746年には家老に就任します。しかし、就任当時、松代藩は深刻な財政難に陥っていました。これは、3代藩主・真田幸道の代から、幕府の度重なる手伝普請などによって徐々に悪化していたものでした。

1742年の大水害（戌の満水）は、藩の財政をさらに圧迫し、幕府から多額の借金をせざるを得ない状況に追い込みました。この状況を打開すべく、5代藩主・真田信安は原八郎五郎を家老に抜擢、藩政改革に着手します。原は家臣の知行・俸禄の半知借上を継続し、さらに年貢の前納を強行しました。しかし、この強引な改革は家臣の反発を招き、1744年には足軽によるストライキが発生する事態にまで発展しました。

1751年には、原八郎五郎を罷免し、代わりに田村半右衛門を登用しますが、これも失敗に終わります。田村の性急な改革は農民の反発を買い、「田村騒動」と呼ばれる一揆が発生しました。原や田村の時代には、贈賄や横領といった汚職も横行し、藩の風紀は乱れていました。

1752年、信安の死後、家督を継いだ真田幸弘は、1757年、恩田民親を「勝手方御用兼帯」に任命し、藩政改革を委任しました。民親は幸弘から全権を委任され、家老以下の藩士に誓詞の提出を求めると同時に、自らも誠実な行動を心掛けました。領民とも直接対話を行うなど、丁寧な姿勢で改革を進め、反発を最小限に抑えました。

民親の改革は、大きくは原八郎五郎の政策を踏襲したものでしたが、質素倹約の励行、贈収賄の禁止、不公正な民政の防止など、綱紀粛正に力を注ぎました。年貢の前納や御用金の賦課を廃止し、月割上納制を導入するなど、納税の負担軽減にも取り組みました。また、山野や荒地の開墾、殖産興業にも力を入れたほか、1758年には藩校「文学館」を開設し、文武両道の教育を奨励しました。

民親の改革によって藩財政そのものの劇的な改善は見られませんでしたが、公正な政治姿勢と文武奨励は、藩士や領民の意識改革に大きく貢献しました。1762年、46歳で病没しました。彼の遺志は、藩主幸弘や、民親の妻の弟である望月治部左衛門によって受け継がれていきました。

民親の功績を称えた『日暮硯』という書物がありますが、その記述には脚色も多く含まれていると言われています。民親の墓所は、真田家の菩提寺である長国寺の境内です。1918年には正五位を追贈されました。恩田民親の生涯は、困難な状況下でも、誠実さと改革への強い意志で藩を支え続けた、稀有な家老の姿を私たちに示しています。彼の行動は、現代においても、リーダーシップや公正な政治のあり方について考える上で重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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