百官名

百官名について

百官名（ひゃっかんな）とは、家系、親の官職、あるいは本人の官職名を由来とする仮名（けみょう）の一種です。主に武士社会で用いられ、個人の通称として広く普及しました。

百官名の歴史

その起源は鎌倉時代に遡ります。朝廷が財源確保のため、御家人に官職を授けることが始まりでした。この慣習が広まり、武士の間で官名を名乗ることが一般的になります。

南北朝時代には、両軍が配下の武将に官位を与える慣行が見られましたが、室町時代以降、守護大名が家臣に受領名（国司の官名）を授与し、私称を許す事例が現れました。これらは正式な官職ではないため、公の場では別の表現に置き換えられることもありました。

また、衛府の官名に「太郎」「次郎」などの輩行名を冠した呼称（仮名書出）を、主君が家臣に与える慣習も生まれました。先祖や主家から与えられた官名を、家督継承の証として用いるケースも見られるようになります。

こうして、「名字＋官名」というパターンが、武士の呼称として定着しました。

百官名の特徴

百官名は必ずしも正式な官名ではありません。武士階級で朝廷から正式に任官される者はごく一部で、多くは官職を私称していました。戦国時代には、大名や領主が村落上層階級を取り込む中で、官衙名や官職の等級のみを名乗ったり、官職名の一部を名乗りに用いる風習が広がりました。

関東地方では、「頼母」や「一学」のような、官名風の擬似的な仮名が発達しました。

百官名は通常、名字の次、諱（いみな）の前に置かれます。また、正式な官名とは読み方が異なる場合もあります（例：蔵人（くろうど）→百官名：くらんど）。

百官名の種類

百官名には、以下のような様々な種類があります。

太政官
左弁官局：中務、図書、内蔵、内匠、監物、内記、式部、大学、治部、雅楽、玄蕃、民部、主計、主税
右弁官局：兵部、隼人、刑部、囚獄、大蔵、織部、宮内、大膳、木工、大炊、主殿、掃部、内膳、典膳、造酒、采女、主水
少納言局：外記
弾正台
弾正
衛府
左近、右近、将監、将曹、左衛門、右衛門、靫負、左兵衛、右兵衛、権兵衛、金吾
春宮坊
主膳、舎人、主馬、帯刀
兵馬司・馬寮
兵馬、左馬、右馬、典厩
兵庫・兵庫寮
兵庫
京職
左京、右京、東市、西市
大宰府
大弐、少弐
令外官
修理、蔵人、勘解由、斎宮
国司
国司（令制国）

百官名の主な例

以下に、実在の人物、歌舞伎役者の名跡、架空の人物における百官名の例を挙げます。

実在の人物

津田監物：津田流鉄砲術の祖
高山右近：戦国大名
小田辺大学：「乗込み大学」の異名を持つ武将
車丹波：佐竹氏家臣
舞兵庫、高野越中、大山伯耆、大場土佐：豊臣秀次家臣
大橋掃部、島左近、蒲生将監：石田三成家臣
平塚左馬助：安土桃山時代の武将
大谷大学、岡部大学：大坂の陣で活躍した武将
奥平隼人：浄瑠璃坂の仇討ちで討たれた家臣
伊奈図書：徳川家康の旗本
向井将監：江戸幕府御船手奉行
石出帯刀：幕府旗本
島田弾正：江戸幕府南町奉行
安藤帯刀：紀州藩附家老
神子上典膳、柳生兵庫、宮本武蔵：剣豪
田中玄蕃：ヒゲタ醤油創始者
伊達安芸、原田甲斐、柴田外記：仙台藩の御家騒動に関与した人物
大石内蔵助、大石主税、浅野大学：赤穂事件の人物
吉良左兵衛：吉良上野介の養子
千坂兵部：米沢藩家老
竹内式部：神道家
山県大弐：学者
恩田木工：松代藩家老
土井図書：土井利益家臣
平田靱負：宝暦治水の総奉行を務めた薩摩藩家老
仙石左京：仙石騒動時の出石藩筆頭家老
松前勘解由：松前藩家老格
長野主膳：彦根藩主・大老井伊直弼の腹心
池内大学：儒学者
中根靱負：福井藩主松平慶永の側近
斎藤監物：水戸藩士
安島帯刀：水戸藩家老
藤田将監：天狗党の乱の水戸藩家老
興津蔵人：水戸藩家老
長井雅楽、福原越後、国司信濃：長州藩家老
遠山靱負：尾張藩士
島津豊後：島津氏分家当主
小松帯刀：薩摩藩家老
田中土佐、神保内蔵助、山川大蔵：会津藩家老
海老名弾正：柳川藩藩士
平手造酒：幕末の剣客
奥田主馬、中西主税：尾張藩士
山本権兵衛：海軍大将、政治家
辰野金吾：建築家
勝田主計：大蔵大臣
大内兵衛：経済学者
堀口大学：詩人
小松左京：小説家
片山右京、山本左近：自動車レーサー
真木蔵人：俳優
中村隼人：プロ野球選手
阿久津主税：将棋棋士
水島武蔵、藤本主税：プロサッカー選手
前田大和：プロ野球選手（登録名「大和」）
市原隼人：俳優
吉田隼人：騎手

歌舞伎役者の名跡

尾上右近
尾上左近
市川右近

架空の人物

仁木弾正：『伽羅先代萩』の登場人物
赤江図書頭：『名奉行 遠山の金さん』の登場人物
内藤勘解由、左文字右京：『大江戸捜査網』の登場人物
倉田典膳：『鞍馬天狗』の主人公
俵星玄蕃：講談などの登場人物
堀田隼人：小説『赤穂浪士』の主人公
中村主水：『必殺シリーズ』の主人公
早乙女主水之介：『旗本退屈男』の主人公
土屋主水之助：『徳川風雲録』の登場人物
野々宮大弐：『犬神家の一族』の登場人物
鹿斗典膳：『コータローまかりとおる!』の登場人物
九能帯刀、久遠寺右京：『らんま1/2|らんま1_2』の登場人物
杉下右京：TVドラマ『相棒』の主人公
一文字隼人：『仮面ライダー』の登場人物
腹黒主水之助助兵衛：『悪代官シリーズ』の主人公
伊集院隼人：『シティハンター』の登場人物
福音寺備後：『鉄娘な3姉妹』の登場人物
* 國崎出雲：『國崎出雲の事情』の主人公

百官名の現代への影響

明治時代の戸籍制度により、多様な人名は「氏・名」の形式に整理されましたが、百官名はその後も名の一種として用いられることがあります。現代でも、片山右京や真木蔵人のように、百官名にちなんだ人名が見られます。

まとめ

百官名は、武士社会において重要な役割を果たした仮名の一種であり、その歴史や文化は現代にも影響を与えています。官職名から派生した独特な名称は、日本の歴史や文化を理解する上で欠かせない要素です。

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