恵日寺 (福島県磐梯町)

恵日寺：歴史と文化が息づく古刹

恵日寺（えにちじ）は、福島県耶麻郡磐梯町にある真言宗豊山派の寺院です。その起源は平安時代初期に遡り、徳一によって開かれた慧日寺（えにちじ）が前身です。明治時代の廃仏毀釈によって一時廃寺となりましたが、1904年（明治37年）に再興され、現在の寺号となりました。慧日寺跡は、平安時代の寺院遺構として国の史跡に指定されています。

歴史

開創と隆盛

慧日寺は、807年（大同2年）に法相宗の僧・徳一によって開かれました。徳一は奈良の学僧であり、会津地方に仏教文化を広めた人物です。彼は勝常寺や円蔵寺（柳津虚空蔵尊）も建立し、会津における仏教の発展に大きく貢献しました。また、徳一は天台宗の最澄や真言宗の空海とも交流し、仏教思想に関する論争や意見交換を行いました。

慧日寺は、徳一の後を継いだ今与（金耀）の時代に最盛期を迎え、寺僧300人、僧兵数千人、子院3,800を数えるほどに発展しました。

中世の盛衰

平安時代後期には、越後から会津にかけて勢力を張っていた城氏との関係を深めました。源平合戦では、平家方についた城助職を支援するため、慧日寺の僧兵が木曾義仲との戦いに参加しましたが、敗北し、一時的に衰退しました。

中世に入ると、領主の庇護により伽藍の復興が進みましたが、1589年（天正17年）の摺上原の戦いで伊達政宗の侵攻を受け、金堂を残して焼失しました。江戸時代初期に金堂も焼失し、その後再建されましたが、かつてのような大伽藍には至りませんでした。

近代の復興

1869年（明治2年）の廃仏毀釈によって廃寺となりましたが、地元の復興運動が実を結び、1904年（明治37年）に「恵日寺」として再興されました。現在は真言宗に属しています。

慧日寺の遺構

太平洋戦争後に行われた発掘調査により、慧日寺の遺構は「本寺地区」「戒壇地区」「観音寺地区」の三カ所に残されていることが確認されました。

本寺地区

慧日寺の中心伽藍があった場所で、中門、金堂、講堂、食堂などの主要な建物が南北一列に配置されていたことが判明しています。現在、薬師堂や仁王門、徳一廟などが残されており、史跡公園として整備されています。2008年（平成20年）には金堂、2009年（平成21年）には中門が復元され、往時の姿を偲ぶことができます。

戒壇地区

本寺地区の西方に位置し、戒壇跡と伝えられる小山状の遺構が残っています。発掘調査では、平安時代の石塔や火葬骨片が出土しており、墓域であった可能性が指摘されています。

観音寺地区

本寺地区の北東1.7km、山中に位置し、5棟の礎石建物跡が確認されています。門、塔、本堂、倉などの跡と推定されていますが、まだ発掘調査は行われていません。

山岳信仰との関わり

恵日寺は、磐梯山、厩岳山、吾妻山といった山岳信仰の盛んな山々に囲まれており、その立地から山岳信仰と深く関わってきました。磐梯山の噴火が恵日寺の開基のきっかけになったという説もあり、吾妻山神社への参拝ルートの起点にもなっていました。

文化財

国指定重要文化財

白銅三鈷杵：奈良時代の作で、1959年（昭和34年）に国の重要文化財に指定されています。盗難に遭いましたが、後に発見されました。

国指定史跡

慧日寺跡：東北地方における最古の寺院の一つとして知られています。広大な寺跡は1970年（昭和45年）に国の史跡に指定され、復元整備が進められています。

県指定文化財

紙本墨書田植歌
絹本著色恵日寺絵図
日光・月光菩薩面
薬師如来光背化仏
本堂（旧客殿）・山門附棟札

磐梯山慧日寺資料館

本寺地区南西部には、慧日寺関連の文化財を保存・公開する磐梯山慧日寺資料館があります。館内では、発掘調査の成果や関連資料が展示されています。また、資料館の敷地内には馬頭観音堂や龍ヶ沢湧水などもあります。

交通アクセス

JR磐越西線磐梯町駅より徒歩30分
磐越自動車道磐梯河東ICより車で5分
磐梯東都バスで磐梯町駅前より約8分、JR磐越西線猪苗代駅前よりバス35分

恵日寺は、その長い歴史の中で様々な変遷を経てきましたが、現在も貴重な文化財や遺構を伝える寺院として、多くの人々に親しまれています。ぜひ一度、その歴史と文化に触れてみてください。

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