愛と自由を求めて
ダニー・ハサウェイのスタジオ作品群において、1973年にリリースされた『愛と自由を求めて』は特別な意味合いを持つ一枚です。彼の波乱に満ちた生涯において、これが最後に届けられたオリジナル・スタジオ・アルバムとなったからです。原題は「Extension of a Man」と付けられており、その名の通り、ハサウェイ自身のアーティストとしての広がりや深化を映し出しています。
このアルバムは、ソウルやR&Bの枠を超えた多様な音楽性を探求しています。特にアルバムの冒頭を飾る「神わが声をきき給う」は、オーケストラを大胆に取り入れた壮大な楽曲です。ハサウェイ自身は、この曲を制作するにあたり、クロード・ドビュッシーやモーリス・ラヴェル、エリック・サティといった19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したヨーロッパの作曲家や、アメリカのジョージ・ガーシュウィンからインスピレーションを得たと述べています。これは、彼の音楽的バックグラウンドがクラシックや現代音楽にも深く根差していたことを示唆しています。この「神わが声をきき給う」、そして「アイ・ノウ・イッツ・ユー」といった楽曲には、当時ジャズ界で頭角を現していたベーシスト、スタンリー・クラークが参加しており、ジャンルを超えたコラボレーションが実現しています。
収録曲の中には、ハサウェイがトランペット奏者のハーブ・アルパート率いるティファナ・ブラスのために書き下ろした「フライング・イージー」のセルフカバーも含まれています。また、「溢れ出る愛を（I Love You More Than You'll Ever Know）」は、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズが1968年のデビューアルバムで発表した楽曲のカバーであり、原曲の持つブルージーな情感をハサウェイ流に表現しています。
本作がCD化された際には、ボーナス・トラックとして「ロード・ヘルプ・ミー」が追加収録されました。この楽曲は1971年10月11日に録音されたもので、1972年に先行シングルとして発表された「溢れ出る愛を」のB面として既に世に出ていたものです。
アルバムのリリースに先立ち、1972年にシングルカットされた「溢れ出る愛を」は、アメリカの主要なチャートで好成績を収めました。Billboard Hot 100では最高60位、R&Bシングル・チャートでは20位にランクインしています。アルバム自体もリスナーから支持され、Billboard 200では最高69位を記録し、R&Bアルバム・チャートでは18位まで上昇しました。
アルバム発表後の1973年には、新たにシングルカットされた「愛のすべて（Love, Love, Love）」がBillboard Hot 100で44位、R&Bシングル・チャートで16位と、さらに高い順位を獲得しました。また、「リトル・チルドレン（Come Little Children）」もR&Bシングル・チャートで67位にチャートインしています。
批評家の評価も総じて高く、オールミュージックの音楽評論家ジョン・ブッシュは、このアルバムを「ダニー・ハサウェイの最も野心的なLP」と評し、彼の音楽的な探求心や多様な才能が最大限に発揮された作品として位置づけています。オーケストラからファンク、ソウル、ジャズに至るまで、幅広い要素を巧みに融合させたそのサウンドプロダクションは、当時のR&Bアルバムとしては革新的であり、後世のアーティストにも影響を与えています。
アルバムの収録曲は、ハサウェイ自身の作曲によるものが多いですが、外部の優れたソングライターの楽曲も取り入れています。インストゥルメンタル曲が複数含まれているのも特徴で、「神わが声をきき給う」のパート1、4曲目の「ヴァルデズ・イン・ザ・カントリー」、そして8曲目の「貧民街（The Slums）」はインストゥルメンタルとして収録されています。作曲者として、ハサウェイ以外には、エドワード・ハワード（「いつか自由に」）、ウォルター・ロウやフランクリン・モス・ジュニア（「フライング・イージー」）、アル・クーパー（「溢れ出る愛を」）、J. R. ベイリーやケン・ウィリアムス（「愛のすべて」）、ダニー・オキーフ（「マグダレナ」）、リオン・ウェア（「アイ・ノウ・イッツ・ユー」）などが名を連ねています。
ダニー・ハサウェイ自身は、ボーカルに加え、ピアノやエレクトリックピアノ、オルガンなど様々な鍵盤楽器を担当し、一部楽曲では指揮も行っています。アルバムには、当時最高のセッション・ミュージシャンたちが集結しました。前述のスタンリー・クラークの他、ギターにはコーネル・デュプリー、デヴィッド・スピノザ、ヒュー・マクラッケンなど、ベースにはウィリー・ウィークスやゴードン・エドワーズ、ドラムスにはグラディ・テイトやレイ・ルーカス、リック・マロッタといった名手が参加しています。また、マーヴィン・スタム（トランペット）やデヴィッド・ニューマン（テナー・サックス）、ヒューバート・ロウズ（フルート）といったホーン・プレイヤーや、シシー・ヒューストンらが参加したバッキング・ボーカルも、アルバムの豊かなサウンドを支えています。オーケストラパートには、ジーン・オーロフをコンサートマスターとするストリングスや管楽器の奏者たちが多数参加しており、ハサウェイの音楽的なビジョンを実現するために多くの才能が貢献しています。
『愛と自由を求めて』は、ダニー・ハサウェイというアーティストの類まれなる才能、そしてソウル、ジャズ、クラシックなど様々な音楽要素を融合させる彼の能力が結晶となった作品と言えるでしょう。生前最後の作品でありながら、その内容は決して集約的ではなく、むしろさらなる音楽的探求への意欲を感じさせるものです。彼のキャリアを締めくくる重要な一枚として、今日でも多くの音楽ファンに聴き継がれています。
音楽的背景と制作
このアルバムは、ソウルやR&Bの枠を超えた多様な音楽性を探求しています。特にアルバムの冒頭を飾る「神わが声をきき給う」は、オーケストラを大胆に取り入れた壮大な楽曲です。ハサウェイ自身は、この曲を制作するにあたり、クロード・ドビュッシーやモーリス・ラヴェル、エリック・サティといった19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したヨーロッパの作曲家や、アメリカのジョージ・ガーシュウィンからインスピレーションを得たと述べています。これは、彼の音楽的バックグラウンドがクラシックや現代音楽にも深く根差していたことを示唆しています。この「神わが声をきき給う」、そして「アイ・ノウ・イッツ・ユー」といった楽曲には、当時ジャズ界で頭角を現していたベーシスト、スタンリー・クラークが参加しており、ジャンルを超えたコラボレーションが実現しています。
収録曲の中には、ハサウェイがトランペット奏者のハーブ・アルパート率いるティファナ・ブラスのために書き下ろした「フライング・イージー」のセルフカバーも含まれています。また、「溢れ出る愛を（I Love You More Than You'll Ever Know）」は、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズが1968年のデビューアルバムで発表した楽曲のカバーであり、原曲の持つブルージーな情感をハサウェイ流に表現しています。
本作がCD化された際には、ボーナス・トラックとして「ロード・ヘルプ・ミー」が追加収録されました。この楽曲は1971年10月11日に録音されたもので、1972年に先行シングルとして発表された「溢れ出る愛を」のB面として既に世に出ていたものです。
反響と評価
アルバムのリリースに先立ち、1972年にシングルカットされた「溢れ出る愛を」は、アメリカの主要なチャートで好成績を収めました。Billboard Hot 100では最高60位、R&Bシングル・チャートでは20位にランクインしています。アルバム自体もリスナーから支持され、Billboard 200では最高69位を記録し、R&Bアルバム・チャートでは18位まで上昇しました。
アルバム発表後の1973年には、新たにシングルカットされた「愛のすべて（Love, Love, Love）」がBillboard Hot 100で44位、R&Bシングル・チャートで16位と、さらに高い順位を獲得しました。また、「リトル・チルドレン（Come Little Children）」もR&Bシングル・チャートで67位にチャートインしています。
批評家の評価も総じて高く、オールミュージックの音楽評論家ジョン・ブッシュは、このアルバムを「ダニー・ハサウェイの最も野心的なLP」と評し、彼の音楽的な探求心や多様な才能が最大限に発揮された作品として位置づけています。オーケストラからファンク、ソウル、ジャズに至るまで、幅広い要素を巧みに融合させたそのサウンドプロダクションは、当時のR&Bアルバムとしては革新的であり、後世のアーティストにも影響を与えています。
収録曲に見る多様性
アルバムの収録曲は、ハサウェイ自身の作曲によるものが多いですが、外部の優れたソングライターの楽曲も取り入れています。インストゥルメンタル曲が複数含まれているのも特徴で、「神わが声をきき給う」のパート1、4曲目の「ヴァルデズ・イン・ザ・カントリー」、そして8曲目の「貧民街（The Slums）」はインストゥルメンタルとして収録されています。作曲者として、ハサウェイ以外には、エドワード・ハワード（「いつか自由に」）、ウォルター・ロウやフランクリン・モス・ジュニア（「フライング・イージー」）、アル・クーパー（「溢れ出る愛を」）、J. R. ベイリーやケン・ウィリアムス（「愛のすべて」）、ダニー・オキーフ（「マグダレナ」）、リオン・ウェア（「アイ・ノウ・イッツ・ユー」）などが名を連ねています。
参加ミュージシャン
ダニー・ハサウェイ自身は、ボーカルに加え、ピアノやエレクトリックピアノ、オルガンなど様々な鍵盤楽器を担当し、一部楽曲では指揮も行っています。アルバムには、当時最高のセッション・ミュージシャンたちが集結しました。前述のスタンリー・クラークの他、ギターにはコーネル・デュプリー、デヴィッド・スピノザ、ヒュー・マクラッケンなど、ベースにはウィリー・ウィークスやゴードン・エドワーズ、ドラムスにはグラディ・テイトやレイ・ルーカス、リック・マロッタといった名手が参加しています。また、マーヴィン・スタム（トランペット）やデヴィッド・ニューマン（テナー・サックス）、ヒューバート・ロウズ（フルート）といったホーン・プレイヤーや、シシー・ヒューストンらが参加したバッキング・ボーカルも、アルバムの豊かなサウンドを支えています。オーケストラパートには、ジーン・オーロフをコンサートマスターとするストリングスや管楽器の奏者たちが多数参加しており、ハサウェイの音楽的なビジョンを実現するために多くの才能が貢献しています。
『愛と自由を求めて』は、ダニー・ハサウェイというアーティストの類まれなる才能、そしてソウル、ジャズ、クラシックなど様々な音楽要素を融合させる彼の能力が結晶となった作品と言えるでしょう。生前最後の作品でありながら、その内容は決して集約的ではなく、むしろさらなる音楽的探求への意欲を感じさせるものです。彼のキャリアを締めくくる重要な一枚として、今日でも多くの音楽ファンに聴き継がれています。
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