懐仁可汗

懐仁可汗（かいじんかがん）

懐仁可汗（生年不詳 - 747年）は、8世紀に存在した回鶻（ウイグル）可汗国の初代可汗です。薬羅葛（ヤグラカル）氏の出身で、名は骨力裴羅（クトゥルグ・ボイラ）といいました。彼は当初、骨咄禄毘伽闕可汗（クトゥルグ・ビルゲ・キョル・カガン）と称していましたが、唐に入朝した際に骨咄禄毘伽闕懐仁可汗の称号を授けられました。

生涯

骨力裴羅は、回紇部において頡利発（イルテベル：部族長）という地位にありました。当時の北アジア地域は、東突厥（第二可汗国）が衰退し、新たな勢力が台頭する激動の時代でした。

742年、抜悉蜜（バシュミル）部、回紇（ウイグル）部、葛邏禄（カルルク）部の3部族が東突厥に対して反乱を起こしました。この反乱において、抜悉蜜部の酋長が推されて頡跌伊施可汗（イルティリシュ・カガン）となり、骨力裴羅は葛邏禄部の族長と共に左右の葉護（ヤブグ）という地位に就きました。骨力裴羅は葉護頡利吐発（ヤブグ・イルテベル）として唐に遣使を送り入朝したため、唐の玄宗皇帝から奉義王に封じられました。

744年8月、抜悉蜜部、回紇部、葛邏禄部の3部族は、東突厥の烏蘇米施可汗（オズミシュカガン）を殺害し、その首を唐の都である京師に送りました。これは、東突厥の衰退を決定づける出来事でした。東突厥では、烏蘇米施可汗の弟である白眉特勤の鶻隴匐が白眉可汗として即位し、抜悉蜜の頡跌伊施可汗と対立しました。

その後、回紇部と葛邏禄部は頡跌伊施可汗を殺害し、骨力裴羅を奉じて骨咄禄毘伽闕可汗（クトゥルグ・ビルゲ・キョル・カガン）としました。これにより、骨力裴羅は回紇部の長としての地位を確立しました。彼は再び唐に遣使を送り入朝し、懐仁可汗の称号を授けられました。また、本拠地である牙帳を、南の突厥故地（漠南）から鬱督軍山（ウテュケン山）・昆河（オルホン川）の間に移しました。これは、回紇の勢力範囲を拡大し、新たな支配体制を築く上で重要な意味を持ちました。

745年、骨力裴羅は東突厥の白眉可汗を攻め滅ぼし、頓啜羅達干（トンチョラ・タルカン）を唐に派遣して白眉可汗の首を献上させました。この功績により、唐によって左驍衛員外大将軍に任じられました。骨力裴羅はさらに領土を拡大し、東は室韋、西は金山（アルタイ山脈）、南は大漠（ゴビ砂漠）にまで及ぶ広大な領域を支配下に置きました。これにより、彼は古の匈奴の地を手に入れることとなり、回紇の勢力を大きく拡大しました。

骨力裴羅が亡くなると、子の磨延啜（モユン・チョル）が後を継ぎ、葛勒可汗と号しました。

懐仁可汗の時代は、回紇が勃興し、中央アジアの歴史において重要な役割を果たすようになる転換期でした。彼の政策と軍事的な成功は、後の回紇帝国の基礎を築いたと言えるでしょう。

参考文献

『旧唐書』（列伝第一百四十五 迴紇）
『新唐書』（列伝第一百四十下 突厥下、列伝第一百四十二上 回鶻上）

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