回鶻

回鶻可汗国：モンゴル高原の覇者とその興亡

回鶻可汗国（かいこつ かかんこく）は、8世紀後半にモンゴル高原からジュンガル盆地東部にかけて広大な領土を支配した遊牧国家です。現代のウイグル族の祖先とされる回紇（かいこつ）部を中心とする九姓鉄勒（くせい てつろく）という複数の部族連合から成り立っていました。ウイグル帝国、ウイグル国などとも呼ばれ、可汗を国家元首とする体制をとっていました。中国の史書では「迴紇」「回紇」「迴鶻」「回鶻」など様々な表記が見られます。

回鶻可汗国の起源と形成

回鶻の祖先は、カザフステップからモンゴル高原北部に居住していた丁零（ていれい）族だと考えられています。その中からモンゴル高原北部にいた遊牧集団が回紇部を形成していきました。史書『旧唐書』や『新唐書』では、回鶻の祖先を匈奴とする説もあります。

回紇部は、歴史上「高車（こうしゃ）」や「鉄勒（てつろく）」などとも表記され、その中で徐々に独自の勢力を拡大していきました。北魏の時代には、高車の一部族として存在し、しばしば北魏と対立しました。

西突厥の支配下にあった鉄勒諸部は、605年に西突厥の攻撃を受けますが、回紇部は他の部族と共に西突厥の支配から脱出し、独立を宣言します。やがて唐の勢力下に入りますが、その後も唐との関係は緊張と緩和を繰り返しました。

東突厥の滅亡とモンゴル高原の支配

742年、回紇部は葛邏禄（カルルク）部、抜悉蜜（バシュミル）部と同盟を結び、東突厥を攻撃。東突厥を滅ぼし、744年には回紇部の骨力裴羅（クトゥルグ・ボイラ）がクトゥルグ・ビルゲ・キョル・カガンとなり、モンゴル高原の覇者となりました。

安史の乱と唐との関係

755年に勃発した安史の乱では、唐は回紇に援軍を求めました。回紇は唐に兵を送り、安禄山討伐に貢献します。これにより唐と回紇の関係は強まりましたが、安史の乱終結後も、回紇と唐の間では、僕固懐恩の反乱など、幾度となく衝突が起こります。安史の乱後、回鶻はジュンガル盆地へ勢力を拡大します。

回鶻可汗国の内部抗争と崩壊

回鶻可汗国内部では、可汗の廃立や政権交代が繰り返され、権力闘争が絶えませんでした。また、唐との関係も安定せず、何度も戦争が勃発しました。異常気象による家畜の大量死なども追い打ちをかけ、840年頃、黠戛斯（キルギス）の攻撃を受け、回鶻可汗国は崩壊しました。

回鶻可汗国の文化と社会

回鶻可汗国は、シルクロード貿易を介して中央アジアや西域諸国との活発な交流を行い、莫大な富を得ました。マニ教を国教とするなど、独自の文化も形成しました。回鶻の人々は優れた騎馬民族であり、軍事力も強大でした。また、都市建設や道路整備にも力を入れました。

回鶻可汗国の経済は主に牧畜に依存していましたが、一部では農耕も行われていました。羊が最も多く飼育され、馬は特に重視されていました。唐との間では盛んな馬絹貿易が行われ、回鶻は大きな利益を得ていました。

回鶻可汗国後の動向

回鶻可汗国の崩壊後、モンゴル高原は黠戛斯に支配され、その後はタタル族が台頭しました。回鶻の一部は天山ウイグル王国や甘州ウイグル王国などの新たな国家を建設し、モンゴル高原周辺ではその後も様々な勢力が台頭し、モンゴル帝国の成立まで、統一政権は出現しませんでした。

まとめ

回鶻可汗国は、モンゴル高原における重要な遊牧国家として、唐との外交、安史の乱への介入、シルクロード貿易、マニ教の受容など、歴史に大きな足跡を残しました。その興亡は、遊牧国家の盛衰や、周辺勢力との複雑な関係性を示す重要な事例となっています。様々な史料からの研究が継続されており、新たな知見が得られつつあります。 回鶻可汗国の研究は、中央アジア史、東アジア史、さらには世界史を理解する上で欠かせない要素となっています。 その遺産は、現代ウイグル文化にも受け継がれ、現在も活発な研究が続けられています。

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