葛勒可汗

葛勒可汗（グル・カガン）

葛勒可汗（かつろくかがん、Gele Khan、713年？ - 759年）は、回鶻（ウイグル）可汗国の第二代可汗です。懐仁可汗（かいじんかがん）の子として生まれ、氏族は薬羅葛（ヤグラカル）氏、名は磨延啜（モユン・チョル）です。当初は葛勒可汗と称していましたが、唐に入朝した際に英武威遠毘伽可汗（えいぶいえんビルゲ・カガン）の称号を授与されました。

生涯

父である懐仁可汗の死後、太子であった磨延啜が後を継ぎ、葛勒可汗を名乗りました。彼の治世は、唐との関係が重要な転換期を迎える時期と重なります。

755年、中国で安史の乱が勃発すると、唐は大きな危機に陥ります。安禄山率いる反乱軍は瞬く間に首都圏を制圧し、玄宗皇帝は蜀の地へ逃れる事態となりました。その後、玄宗は息子の粛宗に帝位を譲り、自身は太上皇となります。

756年、粛宗が霊武で即位すると、敦煌王李承寀（りしょうさい）を派遣し、回紇可汗国と修好を結ぼうとしました。この時、葛勒可汗は娘を李承寀に嫁がせ、和親を深めるため、娘を毘伽（ビルゲ）公主としました。粛宗は彭原で回紇の使者を厚くもてなしました。

757年、葛勒可汗はさらに使者を派遣し、唐との関係を強化しました。粛宗は李承寀に高位を授け、回紇公主を妃として迎えました。葛勒可汗は長男の葉護（ヤブグ）を派遣し、4千余の兵を率いて唐を支援させました。広平王李俶（後の代宗）と葉護は兄弟の契りを結び、両国の同盟関係はより強固なものとなりました。これにより、回紇は葉護と僕固懐恩（ぼくこかいおん）を派遣し、唐軍と共に安禄山討伐に貢献しました。唐・回紇連合軍は757年11月までに、首都長安と副都洛陽を奪還することに成功しました。

758年、葛勒可汗はさらに使者を派遣し、唐との友好関係を深めました。粛宗は幼い娘を寧国公主として回紇に嫁がせることを決め、葛勒可汗を英武威遠毘伽可汗に冊立しました。翌日、葛勒可汗は寧国公主を可敦（皇后）としました。同年、葛勒可汗は王子の骨啜特勤（クチョル・テギン）らを派遣し、唐の安史の乱平定を支援しました。粛宗は回紇の貢献を喜び、宴を催しました。また、葛勒可汗はキルギスを破ったことを報告し、粛宗はこれを祝いました。年末には、葛勒可汗は寧国公主の婚儀について感謝の意を伝えるため、使者を派遣しました。

759年、回紇軍は唐軍と共に史思明軍と戦いましたが、戦果を挙げることができませんでした。骨啜特勤らが長安に赴いた際、粛宗は彼らを歓待しました。その後、骨啜特勤が帰国する際にも、粛宗は宴を催して送り出しました。同年4月、葛勒可汗が死去し、長男の葉護が先に亡くなっていたため、次男の移地健（いちけん）が牟羽可汗（ボユ・カガン）として跡を継ぎました。

妻子

可敦（カトゥン、Qatun：皇后）
寧国公主（ねいこくこうしゅ）：粛宗の娘
子
葉護太子（ヤブグたいし）：長男
牟羽可汗（ボユ・カガン、移地健）：次男
骨啜特勤（クチョル・テギン）
娘
毘伽公主（ビルゲこうしゅ）：敦煌王李承寀の妻

葛勒可汗（英武威遠毘伽可汗）の碑文と遺跡

葛勒可汗は在位中にいくつかの碑文を建立しており、現在までに3つが発見されています。これらの碑文は、発見された場所にちなんで名付けられています。

『テス碑文』
『タリアト碑文』
* 『シネ・ウス碑文』

これらの碑文において、葛勒可汗は「テングリデ・ボルミシュ・イル・イトミシュ・ビルゲ・カガン（Täŋridä bolmiš il itmiš bilgä qaγan）」、すなわち「天より授かりし国を建てたる賢明なるカガン」と称されています。

また、葛勒可汗はソグド人や中国人のためにバイ・バリク（富貴城）と呼ばれる都城を建設しました。この都城は、現在のモンゴル国ボルガン県ホタグ・ウンドゥルの郊外、セレンゲ川の北2kmの地点に位置しています。さらに、葛勒可汗はオルホン川流域の平原にも宮殿を建設したとされています。

葛勒可汗は、回紇可汗国を統治し、唐との関係を深め、文化的な発展にも貢献した重要な人物でした。

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