東突厥

東突厥可汗国（Türük）

東突厥（ひがしとっけつ、とうとっけつ）は、6世紀末に突厥が東西に分裂した際、東側に成立した勢力です。西側の勢力は西突厥と呼ばれます。東突厥の歴史は大きく分けて三つの時期に分類されます。

1. 第一可汗国期
2. 羈縻政策期
3. 第二可汗国期

744年、最後の東可汗が回紇（ウイグル）によって殺害されると、東突厥の旧領は回鶻に取って代わられました。

歴史

以下の記述は、『隋書』、『旧唐書』、『新唐書』に基づいています。

第一可汗国

582年、突厥は隋の攻撃を受け、大可汗の沙鉢略可汗は小可汗の阿波可汗らと迎え撃ちますが敗走。飢餓と疫病に苦しみ撤退を余儀なくされます。沙鉢略可汗は阿波可汗の気性を危惧し、その領地を襲撃、阿波可汗の母を殺害。これにより、阿波可汗は西の達頭可汗のもとへ亡命します。達頭可汗は阿波可汗に兵を与え沙鉢略可汗を攻撃させ、さらに貪汗可汗や地勤察なども阿波可汗に合流。これにより、阿波可汗は西突厥を建国し、西域諸国を従えました。

東西に分裂した突厥は互いに攻撃を繰り返しますが、都藍可汗の時代に隋の仲裁で和解。しかし、597年、沙鉢略可汗の子である染干が隋と関係を持ったことに都藍可汗が激怒、隋と国交を断絶し、たびたび辺境を侵すようになります。

599年、隋は都藍可汗を攻撃。都藍可汗は達頭可汗と手を組み、突利可汗を攻撃しますが、突利可汗は隋に逃亡。隋は突利可汗を啓民可汗とし、義成公主を娶らせます。都藍可汗は啓民可汗を攻撃しますが、隋軍に敗れ、部下に殺害されます。達頭可汗は歩迦可汗を名乗り、啓民可汗と対立しますが、隋の支援を受けた啓民可汗が優位に立ちました。

601年、鉄勒の諸部が叛乱を起こしますが、隋は楊素を派遣し、啓民可汗と共に鎮圧。歩迦可汗は敗北し吐谷渾へ逃亡。啓民可汗は東突厥全土を掌握し、隋との関係も良好となります。

しかし、子の始畢可汗の時代になると、東突厥は隋の衰退に乗じて反旗を翻します。615年、始畢可汗は数十万の騎馬軍団を率いて隋に侵攻、煬帝を雁門で包囲します。隋は各地の兵を動員し、東突厥軍を撤退させますが、その後も東突厥は隋の北辺を荒らし、朝貢は途絶えます。隋末の動乱では、薛挙、竇建徳ら反乱勢力が東突厥に称臣し、始畢可汗から称号を受けました。

618年、東突厥の支援を受け唐が建国すると、始畢可汗は骨咄禄特勤を唐に入朝させます。619年、始畢可汗は梁師都と共に唐への侵攻を計画しますが、始畢可汗の死により中止となります。始畢可汗の時代には、小可汗の姿はほとんど見られず、大可汗に次ぐ地位は設（シャド）となっていました。始畢可汗は大可汗への権力集中を図りますが、中央集権国家とは言い難く、部族長は一定の地位を保ち、中央からは吐屯が派遣され監視と徴税を行っていました。

中国の混乱に乗じ優位に立っていた東突厥でしたが、頡利可汗の時代になると、内部分裂、鉄勒諸部の反乱、天変地異などにより、630年、唐に降伏しました。

羈縻政策下

頡利可汗の降伏後、唐は鉄勒の薛延陀部族長の夷男を真珠毘伽可汗とし、モンゴル高原を支配させ、東突厥に対しては中国内に留め監視する羈縻支配を行いました。しかし、薛延陀部が勢力を増してきたため、646年、唐は北伐を行い、薛延陀部を破り羈縻支配下に置きました。東突厥の別部出身の車鼻可汗が金山の北で独立を企てたため、649年、唐は回紇部などを率いて車鼻可汗を攻撃し、650年には車鼻可汗を捕らえ、北方民族は全て唐の羈縻支配下に入りました。

唐に降った部族長たちは、唐の太宗に「天可汗」の称号を奉りました。

第二可汗国

羈縻支配下にあった北方民族は、徐々に独立の動きを見せ始めます。682年、阿史那骨咄禄らが挙兵、九姓鉄勒を略奪し勢力を拡大。阿史那骨咄禄は自ら可汗となり、その弟の阿史那默啜を殺（シャド）、阿史那咄悉匐を葉護としました。阿史那骨咄禄は黒沙城を拠点に、唐の北境を侵略します。阿史徳元珍が帰順したため、阿史那骨咄禄は彼を阿波達干に任命しました。

独立を果たした東突厥（第二可汗国）は、その後も唐軍と戦い勝利を収め、唐の辺境地帯を荒らしました。阿史那骨咄禄は病死し、弟の阿史那默啜が後を継ぎ、カプガン・カガンと号して中国北辺への侵入を繰り返しました。しかし、693年からは周に入朝し、武則天から遷善可汗の称号を受けます。696年の契丹討伐での功績により、特進・頡跌伊施大単于・立功報国可汗を賜りました。

698年、阿史那默啜は武則天に和親を請願しますが、武則天がこれを拒否したため、阿史那默啜は激怒し、司賓卿を殺害しようとしました。周の朝廷は東突厥の兵勢を恐れ、和親を許可。7月、武則天は武延秀を阿史那默啜の娘に嫁がせようとしますが、阿史那默啜は唐の皇族ではないことに異を唱え、武延秀を拘束。閻知微を可汗に封じ、南下、唐の軍鎮を攻撃します。周は45万の兵で迎え撃ちますが、各所で惨敗。武則天は阿史那默啜を斬啜と呼びますが、東突厥軍の勢いは止まらず、9月、武則天は唐の皇太子を立てました。これを聞いた阿史那默啜は軍を引きました。

699年、阿史那默啜は弟の阿史那咄悉匐を左廂察、阿史那骨咄禄の子の阿史那默矩を右廂察に任命。子である阿史那匐倶を小可汗とし、処木昆部など十姓の兵馬を統括させ、拓西可汗と号しました。以後、東突厥は連年辺境を侵略します。

710年、睿宗が即位すると、711年、阿史那默啜は和親を請い、宋王李成器の娘を金山公主として娶ることが許可されました。阿史那默啜の子の楊我支特勤が来朝し、右驍衛員外大将軍を授かります。頡利可汗以来、最も強盛となった阿史那默啜でしたが、老齢となり、部族は離散し始めます。

阿史那默啜の晩年は、北方・西方での戦いに明け暮れます。キルギスや鉄勒諸部が反乱を起こし、西ではカルルクやテュルギシュが台頭。さらに、ソグディアナの救援要請にも応じなければなりませんでした。716年、阿史那默啜は抜曳固部征伐中に殺害されます。

阿史那骨咄禄の子の闕特勤は旧部を糾合し、阿史那默啜の子の小可汗と諸弟を殺害。兄の阿史那默棘連を毘伽可汗とし、自身は軍事権を握り、暾欲谷が補佐役となりました。

毘伽可汗の治世は、中国への侵入・略奪は少なく、唐との関係も良好でした。絹馬貿易を恒常的に行う確約を得るための方便として、唐に誠意を見せていたといわれています。都城を築き仏教や道教の寺院を建てようとしましたが、暾欲谷の反対により中止。

暾欲谷、闕特勤、毘伽可汗が相次いで亡くなると、第二可汗国は衰退に向かいます。内紛が相次ぎ、741年以降、回紇がカルルク・バシュミルなどと共に東突厥を攻撃。745年、最後の白眉可汗が殺害され、東突厥は滅亡しました。

政治体制

君主は可汗（カガン）と呼ばれ、中国の皇帝に相当します。皇后は可賀敦（カガトゥン）、皇太子は特勤（テギン）、総督は設（シャド）と呼ばれます。

小可汗

突利可汗：主に契丹・靺鞨部を管轄

特勤

統特勤：主に胡部を管轄
斛特勤：主に斛薛部を管轄

設

延陀設：主に延陀部を管轄
歩利設：主に霫部を管轄

以下に約28の官職があり、世襲によって受け継がれました。

葉護（ヤブグ）
屈律啜（キョリチュル）
阿波（アパ）
俟利発（イルテベル）
頡利発（イルテベル）
吐屯（トゥドゥン）
俟斤（イルキン）
閻洪達
達干（タルカン）

可汗廷（首都）は都斤山（鬱督軍山）に置かれました。東突厥は多くの被支配民族を抱え、東は契丹、西は吐谷渾、高昌諸国を従えていました。

東突厥（第二可汗国期）の碑文

いわゆる突厥碑文は、突厥時代（特に第二可汗国期）に建てられた碑文です。古代テュルク語／古代トルコ・ルーン文字（突厥文字）で書かれています。

『チョイレン銘文』：第二可汗国の建国を称えて建てられた
『バイン・ツォクト碑文』（トニュクク碑文）：トニュクク自身が『チョイレン銘文』の30年後に作成
『ホショ・ツァイダム碑文』：ビルゲ・カガン、キュル・テギン兄弟の功績を称えて彼らの死後に建てられた
『キョル・テギン碑文』
『ビルゲ・カガン碑文』

日本ではこれらの碑文をオルホン碑文と総称することがありますが、正確な命名とは言えません。

その他の碑文

『オンギン碑文』：オンギン河畔で発見
『イフ・ホショトゥ碑文』：イフ・ホショトゥで発見
『キュリ・チョル碑文』

歴代君主

東突厥可汗国

啓民可汗（587年 - 609年）
始畢可汗（609年 - 619年）
処羅可汗（619年 - 620年）
頡利可汗（620年 - 630年）
突利可汗（620年 - 631年）

羈縻政策下

乙弥泥孰俟利苾可汗（639年 - 644年）
乙注車鼻可汗（？ - 650年）
阿史那泥孰匐（679年 - 680年）
阿史那伏念（680年 - 681年）

突厥第二可汗国

阿史那骨咄禄（682年 - ？年）
阿史那默啜（？ - 716年）
毘伽可汗（716年 - 734年）
伊然可汗（734年）
登利可汗（734年 - 741年）
骨咄葉護（741年 - 742年）
頡跌伊施可汗（742年 - 744年）
烏蘇米施可汗（？ - 744年）
白眉可汗（744年 - 745年）

参考文献

『隋書』
『旧唐書』
『新唐書』
護雅夫『古代トルコ民族史研究Ⅰ』
三上次男・護雅夫・佐久間重男『人類文化史4 中国文明と内陸アジア』
小松久男『中央ユーラシア史』
森安孝夫『興亡の世界史05 シルクロードと唐帝国』
『岩波講座世界歴史11　中央ユーラシアの統合』

関連項目

ウイグル
オグズ
契丹
回紇
カルルク
堅昆
高車
昭武九姓
ソグド人
丁零
鉄勒
テュルク
テュルク諸語
突厥
突厥文字
西突厥
* 絹馬貿易

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