戴逵

戴逵（たい き）

戴逵（326年 - 396年）は、中国東晋時代の多才な人物であり、画家、彫塑家、そして文人として名を馳せました。字は安道といい、その才能は искусствоのみならず、幅広い学問にも及んでいました。

生涯

戴逵は譙国銍県（現在の安徽省宿州市）に生まれました。若い頃には豫章に滞在し、術士の范宣に師事し、彼の姪と結婚しました。その後、会稽郡剡県（現在の浙江省紹興市嵊州市）に移り住み、礼節を重んじ、自らを律する生活を送りました。彼は博学であり、文章作成に優れていただけでなく、琴、書道、絵画など、様々な芸術に通じていました。

東晋の孝武帝は、戴逵の才能を高く評価し、散騎常侍や国子博士といった要職に就けようと何度も彼を招きました。しかし、戴逵は官僚としての束縛を嫌い、これらの要請をすべて拒否しました。孝武帝が彼の意思に反して強制的に仕官させようとしたため、戴逵は呉国（現在の江蘇省南部）に逃れました。呉国内史の王珣の庇護を受け、後に会稽内史の謝玄の計らいにより、故郷の剡県に戻ることができました。王珣が尚書僕射となった際、戴逵を国子祭酒・散騎常侍として推挙しましたが、彼はこれもまた固辞しました。彼の著作としては、『戴逵集』9巻が知られていますが、残念ながら書画作品は現存していません。

逸話と評価

戴逵の才能を示す逸話は数多く残されています。幼い頃、瓦の破片と鶏卵を混ぜて小さな「鄭玄の碑」を作り、その文章の美しさと書の見事さを称えられたといいます。10歳くらいの時に瓦棺寺で描いた絵を見た王長史という人物は、「この子は絵がうまいだけでなく、将来必ず大きな名声を博すだろう。自分の目でそれを見ることができないのが残念だ」と語ったと伝えられています。

南朝斉の謝赫は、戴逵の絵を「情韻綿密、風趣巧抜」と評しました。これは、彼の作品が情感豊かで繊細でありながら、巧みな技と趣向に満ちていることを意味します。また、戴逵は権力者に対しても屈しない強い意志を持っていました。太宰・武陵王司馬晞が彼の琴の腕前を聞きつけ、召し出そうとした際には、使いの者の面前で琴を叩き壊し、「戴安道は王門の伶人にはならない」と言い放ったという逸話は、彼の気骨を示すものとして広く知られています。

謝安が初めて戴逵と会った際、当初は彼を軽く見て琴と書についてのみ語り合いました。しかし、戴逵がその無礼を咎めることなく、精妙な議論を展開するのを聞き、謝安はその人物の大きさに感服したと伝えられています。

戴逵は、その多才な才能と権力に屈しない姿勢によって、後世に大きな影響を与えた人物として記憶されています。

参考文献

『晋書』巻94
『歴代名画記』第5巻
『隋書経籍志』
『世説新語』

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