戸川安宣 (編集者)

戸川安宣：ミステリ界の巨匠、その生涯と業績

戸川安宣氏は、日本のミステリ界において、編集者、評論家として、そしてミステリ専門書店の店主として、比類なき功績を残した人物です。1947年生まれ。東京創元社元会長、元社長という肩書きからも、その影響力の大きさが伺えます。単なる編集者という枠を超え、日本の本格ミステリの発展に大きく貢献した、まさにミステリ界の巨匠と言えるでしょう。

由緒ある家系とミステリとの出会い

戸川氏は、歴史ある家系に生まれました。生家は備中庭瀬藩戸川家の分家筋にあたる由緒ある家系で、幼少期は長野県で疎開生活を送った後、東京で育ちました。母方の祖父は羽黒山修験本宗の独立に尽力した僧侶、伯父は民俗学者という、特異な環境で育ったことが、氏の多様な視点と深い洞察力の形成に影響を与えたと考えられます。立教大学文学部史学科では宗教民俗学を専攻。学生時代には立教ミステリ・クラブを創立するなど、早くからミステリへの関心を示していました。そのクラブ顧問は、なんと江戸川乱歩の息子である平井隆太郎氏でした。

東京創元社での活躍：ミステリ作家育成と編集者としての才能

大学卒業後、東京創元社に入社。編集者として長年活躍し、編集長、社長、会長を歴任しました。入社当時から、限られた人員の中で、創元推理文庫をはじめとする様々な企画に関わり、多様なジャンルの書籍を編集。翻訳家の宇野利泰氏や乾信一郎氏などとも仕事をし、J・G・バラードやE・D・ビガーズなどの作品を日本に紹介しました。

戸川氏の真骨頂は、編集者としての卓越した才能です。単に書籍を編集するだけでなく、数々のミステリ作家を育成したのです。特に「日本探偵小説全集」の企画や、『鮎川哲也と十三の謎』叢書では、北村薫氏、有栖川有栖氏、宮部みゆき氏といった、現在第一線で活躍する人気作家をデビューに導きました。これらの功績は、日本のミステリ界に計り知れない影響を与えました。1990年には「十三番目の椅子」の一般公募を実施し、翌年には鮎川哲也賞を創設するなど、ミステリ界の発展に貢献する活動も展開しました。

ミステリ専門書店の店主としての経験

東京創元社での活躍に加え、戸川氏はミステリ専門書店「TRICK + TRAP」の店主も務めていました。2003年から2007年まで、日本で唯一と称されるミステリ専門書店を経営。書店経営を通して、読者と直接接することで、ミステリへの情熱をより深く、広く社会に伝える活動を行いました。

執筆活動と受賞歴

編集者としての活動に加え、戸川氏は自らも多くの著作を発表しています。2016年には、氏の半生を綴った回想録『ぼくのミステリ・クロニクル』が刊行され、ミステリ界への貢献と、その魅力を余すことなく伝えています。また、宇山日出臣氏とともに、2004年には第4回本格ミステリ大賞特別賞を受賞するなど、その功績は高く評価されています。

まとめ：ミステリ界への多大な貢献

戸川安宣氏の生涯は、日本のミステリ界の歴史そのものです。編集者、評論家、そしてミステリ専門書店の店主として、常にミステリと向き合い、その発展に尽力しました。数々の作家を育成し、多くの作品を世に送り出し、ミステリ文化の普及に貢献してきた氏の功績は、今後も日本のミステリ界に長く語り継がれることでしょう。

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