戸田氏正

戸田氏正：開明的な藩主と激動の幕末

戸田氏正は、江戸時代後期の美濃国大垣藩の第9代藩主として、激動の幕末期を生きた重要な人物です。大垣藩戸田家の10代当主であり、従四位下・采女正に叙せられ、のちに贈従三位の栄誉に浴しました。文化10年（1813年）、8代藩主戸田氏庸の長男として誕生し、幼名は新二郎でした。

氏正は、文政10年（1828年）に将軍徳川家斉に拝謁し、文政11年（1828年）には従五位下伊賀守に叙任されています。天保12年（1841年）には家督を相続し、藩主の重責を担いました。在任中は、開明的な政策を積極的に推進しました。特に洋学への造詣が深く、佐久間象山や勝海舟らに師事する藩士を育成し、藩内に洋式学を積極的に導入するなど、時代の変化に対応した先進的な施策を展開しました。

藩政改革においては、城代の小原鉄心と緊密に協力し、藩の近代化に尽力しました。洋式軍制の導入、大砲鋳造など、軍事面での改革も積極的に推進し、藩の軍事力を強化しました。この改革は、大垣藩の存続と発展に大きく貢献しました。一方、徳川斉昭との親交を通じて尊皇攘夷思想に傾倒していく一面も持ち合わせていました。

嘉永3年（1850年）には従四位下に昇進し、藩主としての地位を盤石なものにしました。安政3年（1856年）には、長男の氏彬に家督を譲り隠居。しかし、隠居後も藩政に深く関与し続けました。戊辰戦争においては、朝敵となった藩の状況下で、小原鉄心らと協力し、尊王攘夷の藩論を統一することに尽力しました。明治3年（1868年）には明治天皇に拝謁し、新しい時代の到来を目の当たりにしました。

明治9年（1876年）、64歳で生涯を閉じました。氏正の死後、父祖の戸田氏鉄と共に明治42年（1909年）に贈従三位の栄誉を贈られています。大垣の常葉神社では、藩祖戸田一西以来の歴代当主と共に祭神として祀られており、その功績は現在も地元で語り継がれています。

氏正の生涯は、激動の幕末期にあって、開明的な改革者として藩の発展に貢献した大名の姿を鮮やかに描き出しています。洋学導入や藩政改革、尊皇攘夷への傾倒など、彼の複雑な政治姿勢は、時代の変化に対応しようとする藩主の苦悩と決断を反映していると言えるでしょう。また、小原鉄心との協力関係や、家臣の育成といった側面からも、優れた指導者としての資質が見て取れます。彼の功績は、単なる藩主の枠を超え、日本の近代化に貢献した人物として評価されるべきでしょう。


系譜

父: 戸田氏庸（1780-1841）
母: 泰寿院（戸田氏養の娘）
正室: 親姫（島津重豪の十女）
長男: 戸田氏彬（1831-1865）
三女: 米、あるいは鑑子（池田政詮正室）
側室: センあるいはキテ（薬師寺嘉兵衛の娘、高島嘉右衛門の姉）
四男: 戸田氏益（戸田欽堂）（1850-1890）
側室: 吉田氏
五男: 戸田氏共（1854-1936）（戸田氏彬の養子）
次男: 戸田氏良（1839-1892）（戸田氏綏の養子）
三男: 戸田氏寛
長女: 章（のちに作子）（有馬温純正室）
次女: 久（丹羽久子）（丹羽長国正室）
女子: 錦（キン）（玉泉院、松平乗秩正室）
四女: 鏈（レン）（のちに健）（戸田氏彬養女、野宮定穀室）
女子: 牧野貞久正室
* 六男: 氏興（氏起）

氏正の生母不明の子女についても記録が残されているが、詳細は不明である。彼の複雑な家系図は、当時特有の政治的駆け引きや社会情勢を反映していると言えるだろう。

もう一度検索