抄物

抄物（しょうもの）とは

抄物とは、室町時代中期から江戸時代初期にかけて製作された、漢文作品に対する解説・注釈を主とする書物の総称です。先行する様々な注釈を参照し、分かりやすくまとめられた講義の筆録、もしくは講義形式を借りた注釈書であり、口頭語的な要素を生かしつつ仮名書きで記述されることが多いのが特徴です。そのため、注釈の内容だけでなく、中世後期の国語学資料としても高い価値を持っています。

抄物の種類と成立

抄物は大きく分けて、以下の3つの形式に分類できます。

1. 講師の手控え: 講義のために講師が作成する手控え形式のもの
2. 聞書: 講義の参加者がその内容を筆録した聞書形式のもの
3. 集大成: 先行する抄物を集大成した形式のもの

しかし実際には、聞書であっても直接筆録されたものではなく、講師の手控えを書き写したものであったり、手控えであっても先行する抄物を参照して作成されたりと、その成立ちは多岐にわたります。初期の抄物は純粋な手控え・聞書の形式が多いですが、後期になるにつれて複雑な成立ちを持つものや、集大成形式のものが増加する傾向にあります。

また、注釈・解説としての性質上、先行する抄物の内容を踏襲することが多く、この点が一般的な文学作品とは異なる特徴です。

抄物の文体

抄物の文体は、漢文によるものも存在しますが、多くは和文、中でも当時の口語の様相を色濃く残したものが多く見られます。また、「～ゾ」という係助詞「ゾ」を文末終止に用いる独特の文体が用いられるのも特徴です。これらの特徴は、後期に作られた、実際には講義とは関わりのない抄物においても踏襲されており、抄物というジャンルを特徴づける要素として扱われています。

和文の場合には、片仮名書きが一般的であり、このような抄物を特に「仮名書抄物」と呼ぶこともあります。

抄物の対象作品と担い手

講義・注釈の対象となった作品は、漢籍と内典（仏教経典）、そして一部の国書が中心です。

漢籍: 経書では四書、『毛詩』、『周易』などに多くの抄物が作られました。製作者の多くは明経道博士家に関わりを持つ人々であり、特に清原宣賢がこの分野で大きな役割を果たしました。注釈の内容としては、初期には旧注が中心でしたが、後期には新注の成果も加わるようになります。ただし、新注と旧注が併記されることが多く、全体的には旧注の影響力が強い傾向にあります。史書においては『史記』および『漢書』の列伝を中心とする部分に多くの抄物が残っています。初期には紀伝道博士家が中心でしたが、次第に五山僧がこの分野を担うようになりました。『漢書列伝竺桃抄』は現存する抄物の中でも最古のものとされています。子書（『荘子』など）、集書（『古文真宝』、『三体詩』、『長恨歌』、蘇軾・黄庭堅など北宋詩）に関する抄物も多く存在します。五山僧を中心とする日本詩人や中国詩人の詞華集（『中華若木抄』など）に対する抄物も作られました。
内典: 主に五山僧によって抄物が作られ、原典はほとんどが禅籍です。
* 国書: 『日本書紀』の抄物が盛んに作られました。これは清原宣賢や吉田兼倶らの手によるもので、中世神道と深く関わっています。

このように、抄物は様々な分野の学問において、重要な役割を果たしていました。

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