投入堂

投入堂：絶壁に佇む平安の秘宝

鳥取県東伯郡三朝町、深い緑に包まれた三徳山。
その北側中腹の断崖絶壁に、まるで吸い込まれるように佇むのが、投入堂です。
三仏寺の奥院として建造されたこの仏堂は、平安時代の密教建築の様式を今に伝える貴重な遺構であり、その特異な構造と美しい景観から、日本の国宝に指定されています。

伝説と歴史

投入堂という名の由来は、慶雲3年（706年）に役小角が法力で蔵王権現を祀った仏堂を山に投げ入れたという伝説に遡ります。
実際には、平安時代後期に建てられたと考えられており、当初は「蔵王殿」と呼ばれていたようです。

度重なる修理を経て現在に至りますが、2001年から2002年に行われた年輪年代調査では、11世紀末の木材が使用されていることが判明しており、12世紀前半には現在の形になっていたと考えられています。

建築の妙

投入堂は、玄武岩と凝灰岩の地層の切れ目にある岩陰を利用し、柱で床を支える懸造という特殊な工法で建てられています。

正面や側面に入口はなく、堂の床下を通り、背面から縁に上がるという独特の構造も、その神秘性を高めています。

屋根は檜皮葺の流造で、軽快な反りを見せる屋根や、長短さまざまな柱の構成は、建築美の観点からも高く評価されています。

内部には、かつて7躯の蔵王権現像が安置されていましたが、現在は山下の宝物殿に移されています。

参拝と行者道

投入堂は、「日本一危険な国宝」とも呼ばれ、その参拝は容易ではありません。

険しい登山道（行者道）を登る必要があり、滑落事故の危険性があるため、崖を登って近付くことは原則として禁止されています。

しかし、三仏寺裏手にある登山道から、投入堂を斜め上方に見上げる地点までは立ち入ることが可能です。

入山には、登山事務所での手続きが必要で、服装や靴のチェックも行われます。

これは観光ではなく修行という位置づけであり、寺側は登山に適した服装と靴の着用を推奨しています。

行者道は、起伏に富んだ山道がほとんど整備されることなく自然のまま残されており、鉄の鎖やロープ、木の根などを頼りに進む難所が連続します。

文化財としての価値

投入堂は、その特異な立地と建造物としての美しさから、磯崎新、安藤忠雄、土門拳ら多くの有識者から重要な日本建築として評価されています。

2001年からは、ユネスコ世界遺産への登録を目指す活動も行われています。

また、切手の図柄にも採用されるなど、日本の文化を象徴する存在として広く親しまれています。

その他の投入堂

岩窟中に建てられた仏堂は、他にも不動院岩屋堂（鳥取県若桜町）、龍岩寺奥院礼堂（大分県宇佐市）などが存在し、これらは投入堂と並び「日本三大投入堂」と称されています。

また、高知県越知町にある聖神社の社殿も、断崖の窪みに建てられており、「土佐の投入堂」と呼ばれています。

投入堂は、その神秘的な美しさと、厳しい自然の中に身を置くことで得られる精神的な充足感から、多くの人々を魅了し続けています。

訪れる際には、安全に十分注意し、この貴重な文化遺産を未来へと繋げていきましょう。

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