指貫 (裁縫道具)

指貫とは

指貫（ゆびぬき）は、裁縫の際に針を使う際に、針の滑りや当たりを調整し、指を保護するための道具です。主に中指につけて使用します。

指貫には大きく分けて二つの形状があります。一つは指輪のような形状で、もう一つは指先にはめるキャップのような形状です。キャップ状の指貫は、特に洋裁の世界では「シンブル（Thimble）」と呼ばれ、まつり縫いなどの細かい作業に用いられます。シンブルは、英語でティンブルとも発音されることもあります。

指貫の歴史

指貫の歴史は、人類が布と糸を使って衣服を作るようになった時代にまで遡ります。初期の指貫は、おそらく皮で作られていたと考えられています。実際に、朝鮮半島では紀元前1世紀の楽浪郡の遺跡から、漢の女性が使用していたと思われる銀製の指貫が出土しています。

その後、帆船の帆を縫うなど、より指を保護する必要が出てきたことで、金属製の指貫が作られるようになりました。技術の進歩とともに、より精密な裁縫が求められるようになり、指輪状の指貫に代わってキャップ状のシンブルが主流となりました。

和裁における指貫

和裁で使用される指貫の素材は多岐にわたり、革、金属、プラスチック、布などが用いられます。明治・大正時代には、家庭で千鳥かがりのために、和紙を重ねた厚紙を輪状にして、その上から真綿を巻いた指貫が作られていました。このタイプの指貫は、留め糸を使って輪の大きさを調節し、右手中指の第一関節と第二関節の間の太さに合わせて使用します。素材としては、鹿皮や牛皮のなめした面を指にあて、針が滑らないように小さな凹みがつけられています。長針を使う運針の際には、金属製の皿が付いた指貫が用いられることがあります。

洋裁における指貫（シンブル）

ヨーロッパでは、指貫は単なる裁縫道具としてだけでなく、装飾品としての役割も担い、収集の対象としても人気があります。贈り物としても珍重され、『不思議の国のアリス』や『ピーター・パンとウェンディ』といった文学作品にも、指貫が贈り物として登場する場面があります。また、クリスマスプディングの中に指貫を入れて蒸し上げる習慣もあり、指貫が入ったプディングを食べた人には幸運が訪れるとされています。

17世紀以降、針仕事が女性のたしなみとされ、指貫は富裕層の女性の装飾品となりました。銀などの貴金属が素材として使われるようになり、宝石やエナメル細工で飾られた豪華な指貫も作られました。19世紀に入ると、裁縫がより盛んになり、様々な指貫が作られるようになりました。鼈甲、真珠母貝、象牙、磁器などに彫刻や装飾を施した指貫は、贈答品や収集品として珍重されました。これらの素材が選ばれた理由の一つとして、絹の布を扱う際に適していることも挙げられます。

優れた職人たちは、指貫の先端や縁を半貴石で装飾し、その価値を高めました。辰砂、メノウ、月長石、琥珀などをカボションカットして使用した指貫も見られます。さらに、エナメル細工や、宝石商ピーター・カール・ファベルジェが発展させたギローシュの技法も指貫に利用されました。

ソーイング・パーム

帆の裁縫や皮の加工に使用される指貫の一種に「ソーイング・パーム（Sewing Palm）」があります。これは、シーミング・パーム、セール・パーム、セールメーカーズ・パーム、ローピング・パームなどとも呼ばれます。ソーイング・パームは、穴の開いたプレートが硬い革のバンドにはめ込まれた構造をしています。使用する際は、親指と人差し指の間に針を握り、針の耳を穴の開いたプレートに当て、腕全体で針を押し込みながら縫い進めます。この構造により、帆布やキャンバス、皮革のような非常に頑丈な素材を貫通させる必要がある太い針を、より大きな力で押し込むことが可能になります。

まとめ

指貫は、裁縫をする上で欠かせない道具であり、その形状や素材、使われ方は、時代や文化によって変化してきました。単なる道具としてだけでなく、装飾品や贈答品としての側面も持ち合わせており、人々の生活や文化と深く結びついた存在であると言えるでしょう。

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