掃天観測用高性能カメラ

掃天観測用高性能カメラ (ACS) とは

掃天観測用高性能カメラ (ACS: Advanced Camera for Surveys) は、ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) に搭載された第3世代の光学観測装置です。HST内の光軸と平行に設けられた4つの設置ベイの一つに搭載されており、３つの観測チャネルを備えています。

開発と導入

ACSは、ジョンズ・ホプキンス大学で初期設計が行われ、科学観測能力が決定されました。その後、ボール・エアロスペース&テクノロジーズ、ゴダード宇宙飛行センター、ケネディ宇宙センターなどで組み立てとテストが行われました。2002年3月1日、ハッブル宇宙望遠鏡補修ミッション3B (STS-109) の一環として、スペースシャトル「コロンビア」で宇宙へ運ばれ、3月7日にHSTの微光天体カメラ (FOC) と交換されました。

現在の運用状況

2006年6月19日、電源系統の異常によりACSは一時的に運転を停止しましたが、6月30日に予備電源への切り替えによって復旧し、7月4日に観測を再開しました。同様の電気系統異常は2006年9月29日にも発生しましたが、再度復旧されました。しかし、2007年1月27日には予備電源でショートが発生し、再びACSが使用不能となりました。同年2月には、2006年に故障した主電源の余剰能力を利用して、3つの観測チャネルのうちSolar Blind Channelのみが運用可能となりました。2009年のハッブル宇宙望遠鏡補修ミッション (STS-125) では、全チャネルの復旧が試みられましたが、Wide Field Channelの回復に成功したものの、High-Resolution Channelは修復できませんでした。

特徴

ACSは、HSTの主力観測装置として多岐にわたる用途に利用されており、以下の点で他の装置よりも優れています。

紫外から近赤外域までをカバーする、3つの独立した高解像度チャネルを備えています。
広大な検出域と高い量子効率により、従来の装置と比較して探知効率が10倍に向上しています。
豊富なフィルタ、偏光観測、コロナグラフ、グリズム能力を備えています。

これらの特徴により、ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドのような超深宇宙領域の高感度探査が実現しました。ACSは、太陽系の彗星や惑星から、これまで知られている最も遠いクエーサーに至るまで、広範囲の天体を観測することができます。

チャネルと検出器

ACSは、以下の3つの独立したチャネルを備えています。どのチャネルでも、ACSに搭載されている回転式ホイールのフィルタを通して任意の色を転送できます。ただし、2007年の電気系統故障により、一部の機能は停止したままとなっています。

ワイドフィールドチャネル (WFC)

WFC (Wide Field Channel) は、最も利用頻度の高いチャネルです。検出器は、各2,048 × 4,096ピクセルのCCDイメージセンサを2つ接合した構造で、16.7メガピクセルの解像度を実現しています。視野角は0.05秒角/ピクセルで、検出板全体で202 × 202秒角を確保しています。撮像可能な波長範囲は350-1100 nmです。

高解像チャネル (HRC)

HRC (High-Resolution Channel) には、2種類のコロナグラフが搭載されています。1つは、撮影範囲内の中央部1.8秒角の領域と縁部3.0秒角の領域を任意でマスクする機能です。中央部マスクの方が利用頻度が高く、明るい星の周囲にある円盤や、クエーサー近辺の銀河核を撮像するために使用されます。もう1つは、通称 Fastie finger と呼ばれるマスク領域で、長さ5秒角、幅0.8秒角の指状の帯がCCDの入光部に固定されています。HRCの検出部は1024 × 1024ピクセルで、視野角はWFCより狭い26 × 29秒角ですが、空間分解能は0.025秒角/ピクセルと高くなっています。また、WFCよりも遥かに高感度であり、近紫外波長 (< 350 nm) まで撮影可能です。2007年以降、HRCは電気系統の故障により運用を停止したままとなっています。

可視感度なしチャネル (SBC)

SBC (Solar Blind Channel) に搭載されたマルチアノード・マイクロチャネルアレイ (MAMA) は、紫外線領域の撮像に特化した低背景光用フォトン計測装置であり、波長範囲115-170 nmに対応しています。検出器は、フォトカソード、マイクロチャネルプレート (MCP)、アノードアレイで構成されており、分解能0.030秒角/ピクセル、視野角31 × 35秒角、撮像波長115-170 nmとなっています。ACSのSBCは、STIS (宇宙望遠鏡撮像分光器: Space Telescope Imaging Spectrograph) の予備として用意されたものが流用されています。

参考文献

“SPACE INFORMATION CENTER : STS-109”. 宇宙航空研究開発機構 (JAXA).

外部リンク

* ACS website (stsci.edu)

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