撃術

撃術（キョクスル）とは

撃術（げきじゅつ、朝鮮語：격술、キョクスル、gyeok sul）は、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）で軍隊格闘術として訓練されている近接戦闘術です。主体撃術とも呼ばれます。

概要

撃術は、北朝鮮の朝鮮人民軍で採用されており、テコンドーなどと比較して、相手の殺害を前提とした実戦的な有用性に重点を置いている点が特徴です。北朝鮮における軍隊格闘術の起源は、日本統治時代に、武器を持たない人々が日本軍に対抗するために、古代朝鮮の手搏をより実戦的に改良したものであるとされています。このため、1926年が撃術の発祥年とされています。また、1950年から1953年の朝鮮戦争においては、体格で優位なアメリカ兵に対抗する目的で、その技術が発展しました。

現在の撃術の起源については複数の説があります。一つは、中村日出夫（姜昌秀）の拳道会空手を基に、コマンドサンボやITFテコンドーの技術を組み合わせて実戦的な軍隊格闘術としてまとめられたという説です。もう一つは、松濤館空手、ボクシング、レスリングを組み合わせた軍隊格闘術であり、1960年代に金日成による軍部隊現地指導の際に注目され、普及したという説です。

北朝鮮の軍隊格闘術としての撃術

北朝鮮では、歩兵に対する撃術訓練に多くの時間が割かれています。特殊部隊の場合には、さらに集中的な訓練が行われるとされています。訓練は非常に過酷で、1968年に韓国に帰順した元北朝鮮兵は、1日3,000回の撃破訓練を通じて撃術を習得したと証言しています。1968年の青瓦台襲撃未遂事件で捕虜になった金新朝も、撃術の訓練を受けていました。1977年に帰順した元北朝鮮兵のイ・ヨンソンは、撃術を習得するために、1日2,000回以上もセメント床や石を手刀で打つ訓練や、10m離れた標的に短刀を投げて命中させる投擲術の訓練を行っていたと述べています。1987年の大韓航空機爆破事件の実行犯である工作員、金賢姫も撃術の訓練を受けていたと語っています。

撃術の主な教育機関としては、国防省管轄の15号撃術研究所、国家保衛省管轄の撃術研究班、社会安全省管轄の59号撃術研究所があります。この中で最も規模が大きいのは59号撃術研究所で、通常は男女それぞれ100人程度が研究生として訓練を受けています。

1980年代末に撃術が普及した後、人民軍で格闘技術大会が開催されるようになりました。また、毎年9月頃には人民軍総参謀部偵察局でも別の大会が開催され、各部隊から選抜された選手が約2,000人参加します。これらの大会では、実戦に近い対戦が行われ、上位15位までの選手は15号撃術研究所に研究生として招かれます。

影響

1986年には、北朝鮮で映画『密令027号』が公開されました。この映画は、人民軍特殊部隊が韓国に潜入し、韓国軍特殊部隊の本部を襲撃するという内容のアクション映画で、撃術研究所の研究生である人民軍将校らが出演し、アクションシーンに撃術が取り入れられました。この映画は国内で大ヒットし、作中で描かれた撃術やナイフを使った投擲術は、北朝鮮の観客に強い印象を与えました。映画公開後、子供から現役の軍人まで、多くの男性が映画のアクションシーンを真似て撃術を練習したと言われています。

朴正煕政権末期、韓国軍が北朝鮮から帰順した兵士の格闘技術を確かめる目的で、テコンドーの訓練を受けた韓国軍特殊部隊員と対戦させたところ、撃術を身に着けた北朝鮮兵は韓国兵を圧倒したと言われています。この結果を受け、韓国軍では撃術に対抗できる特殊部隊員向けの格闘術として、特攻武術が考案されることになりました。

また、北朝鮮は友好国への教官派遣も積極的に行っており、アフリカ諸国にも多くの教官が派遣されました。例えば、1977年にはトーゴに50名の撃術教官が派遣されたという記録があります。1988年には、東ドイツ軍の地上軍司令官ホルスト・シュテッヒバルト大将が、金日成との個人的な親交により、北朝鮮から東ドイツに4名の撃術教官を招き、軍や治安機関から選抜された候補者に対する教育を行いました。1988年6月6日から8月5日の間に、3週間の教育課程が3回連続で実施され、その後、撃術の技術は東ドイツ軍の近接格闘術の一部として採用され、教範も作成されました。その他、ポーランドなど、いくつかの東ヨーロッパ諸国の軍隊でも教育が行われました。

脚注

関連項目

特攻武術

外部リンク

総参謀部偵察局所属偵察部隊　対外情報調査部
北朝鮮軍の訓練 YouTube - 部位鍛錬や試し割り等が見られる
「命令－027号」 YouTube - 撃術で敵を倒している
* 朝鮮中央テレビの映像 YouTube - 戦車や砲兵の射撃訓練の他、撃術の演武が公開された

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