撰集抄

『撰集抄』（せんじゅうしょう）は、作者が特定されていない仏教説話集であり、漂泊の歌人として知られる西行の名を借りて著されています。寿永2年（1183年）に讃岐国善通寺で成立したという記述が奥付にありますが、江戸時代までは西行自身の著作と信じられていたものの、研究が進むにつれて、後世の人物による仮託であることが明らかになりました。

概要

鎌倉時代の後期に、興福寺に関係する僧侶が制作に関与したという説があります。作者は不明であるものの、漂泊の歌人としての西行のイメージを形成する上で大きな役割を果たしました。また、御伽草子や謡曲の題材として利用されたり、室町時代の連歌師である心敬や、江戸時代の俳諧師である松尾芭蕉、『雨月物語』などの作者である上田秋成といった、後世の文人たちの創作活動に影響を与えました。

成立年については複数の説があり、13世紀の中頃、建長2年（1250年）頃、あるいは少なくとも弘安10年（1287年）頃までには成立していたと考えられています。全9巻から構成され、神仏の霊験譚、寺院の縁起譚、高僧の逸話、往生譚、発心遁世譚など、合計121話（略本では58話）が収録されています。内容は、西行自身が語り手となり、諸国を巡る旅の中で見聞きした事柄を記録したかのような形式をとっており、西行が第一人称で自己紹介する場面も存在します。理想的な隠遁者の生活を、感想や批評を交えながら描き出し、その根底には強い無常観が流れています。玄賓や増賀といった高僧だけでなく、貴族、武士、遊女など、様々な階層出身の隠遁者が登場し、鎌倉時代における遁世思想の広がりを現代に伝えています。

『撰集抄』は、啓発を受けた『閑居友』と共に、隠者文学として重要な位置を占めていますが、収録されている物語の信憑性自体は高くありません。その多くは、何らかの伝承を基にして大幅な脚色が加えられており、特に年代に関する誤りなど、歴史的な知識の欠如が目立ちます。

主な校注文献

『撰集抄』西尾光一校注、岩波書店〈岩波文庫 ; 6746-6749, 黄(30)-024-1, 黄-1391〉、1970年。NCID BN01969097。
小島孝之, 浅見和彦 編『撰集抄』桜楓社、1985年。NCID BN00260073。
『撰集抄（上・下）』安田孝子[ほか]校注、現代思潮社〈新撰日本古典文庫 ; 75・81〉、1985-1987。NCID BN00501056。
撰集抄研究会 編『撰集抄全注釈（上・下）』笠間書院〈笠間注釈叢刊 ; 37・38〉、2003年。NCID BA61951065。
『続群書類従』に収録。（現：八木書店）

参考文献

山口眞琴 (2004年3月27日). “[西行]]と無常観―「王法の無常」をめぐって―”. 兵庫教育大学. [https://hdl.handle.net/10132/1985
『撰集抄』の根底にある無常観を「王法の無常」とする見解を示しています。

外部リンク

松平文庫本『撰集抄』のテキスト（digital西行庵のページ、原データーは駒澤大学・駒澤短期大学国文学科情報言語学研究室が提供）

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