放伐

放伐（ほうばつ）

放伐とは、中国史において、暴君や暗君を討伐し、その地位から追放する行為を指します。特に、殷の湯王や周の武王といった、後に天子となるべき徳を備えた諸侯が行ったものを指します。

概要

『史記』などの記述によれば、古代中国の三皇五帝の時代には、天子の位は世襲ではなく、徳のある君主が徳のある人物に譲る「禅譲」が行われていたとされます。しかし、夏の時代に入ると世襲制度が確立し、王朝が交代する際に放伐が行われるようになりました。

最初の放伐は、夏の桀王を殷の湯王が討伐した事例であるとされていますが、夏の王朝自体の実在性については議論が続いており、確定的なものではありません。歴史的に明らかな放伐の最初の事例は、殷王朝の末期に、周の武王が殷の紂王を討った事例です。

湯王と武王の故事から、「湯武放伐（とうぶほうばつ）」とも呼ばれます。しかし、その後の中国史において、放伐の事例は多くありません。実質的には放伐であっても禅譲の形式がとられたり、漢民族以外の異民族の侵入によって王朝が交代したりすることが多かったためです。

湯武放伐は、暴君を討伐して民を救うという英雄的な行為であると同時に、「主君殺し」であり、「下剋上」や「弑逆」にあたる行為でもあります。そのため、儒教の教義である「忠」や「名分」と対立し、湯武放伐の是非は後世の儒学者たちの間で議論の的となりました。

放伐を巡る議論

孟子：放伐を肯定しました。紂王は仁を損ない義を破ったため、もはや主君ではなく「一夫」（ただの男）に過ぎないとみなし、主君殺しの罪には当たらないと主張しました。
古学・山県大弐：孟子と同様に放伐を肯定しました。
山崎闇斎：放伐を否定し、湯王や武王よりも、文王のような「忠」を貫く態度こそを支持しました。
上田秋成：国学者の立場から放伐を否定。『雨月物語』巻一「白峯」において、孟子の放伐肯定論に対し、否定的な見解を記述しています。

関連事項

禅譲
天命
易姓革命
史記

出典

* 各種中国史関連書籍

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