放蕩児の遍歴

オペラ『放蕩児の遍歴』

『放蕩児の遍歴』（ほうとうじのへんれき、英: The Rake's Progress）は、イーゴリ・ストラヴィンスキーが1951年に完成させた3幕構成のオペラです。この作品はストラヴィンスキーにとって最後のオペラであり、同時に彼が手掛けた最も長い作品とも言えます。作品の名称は『放蕩児のなりゆき』や『道楽者のなりゆき』など、異なる表現が用いられることもあります。

概要

1947年5月2日、ストラヴィンスキーはシカゴのアート・インスティテュートでウィリアム・ホガースの銅版画「放蕩一代記」を目にしました。この作品から彼はインスピレーションを得て、オペラの台本の作成に取り掛かることにしました。彼は作家のオルダス・ハクスリーを通じて、詩人W・H・オーデンを台本作家として推薦されます。オーデンはストラヴィンスキーとの共同作業を経て、1948年3月31日に台本を完成させました。

作曲の始まりは1948年5月に行われ、1951年4月7日には全曲が完成しました。このとき、オペラの第1幕の前奏曲も同日に作曲されています。

初演

『放蕩児の遍歴』の初演は1951年9月11日、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場にて行われました。ストラヴィンスキー自身が指揮を務め、この日の公演の後はフェルディナント・ライトナーが指揮を引き継ぎました。初演のキャストには、ラファエル・アリエ、エリーザベト・シュヴァルツコップ、ロバート・ラウンズヴィル、オタカル・クラウス、ネル・タンゲマン、ジェニー・トゥーレル、ユーグ・キュエノー、エマニュエル・メンクスなどが含まれました。初演は成功を収め、その後も各地で上演されました。

特に1961年にストックホルムで上演された版は、ストラヴィンスキーによって高く評価され、第二次世界大戦後のオペラ作品の中でも特に成功した作品の一つとなりました。

台本

オーデンとチェスター・コールマンによって書かれた台本は、ホガースの絵とはかなり異なるストーリー展開を持っています。ヒロインはサラ・ヤングではなく、田舎娘のアン・トゥルーラブに変更され、トムの別人格である悪魔的存在のニック・シャドウも新たに加わっています。オーデンとの協力関係は後に続き、ストラヴィンスキーの他の作品でも彼の歌詞が使われました。

登場人物

登場人物たちは、アンとトムの恋愛を中心に展開し、ニック・シャドウがトムの堕落の誘因となります。

あらすじ

物語は18世紀のイギリスを舞台に進行します。第1幕では、田舎のトゥルーラブ家で、愛し合うアンとトムが登場します。トムの叔父の死により大金を手にすることを告げられた彼は、ロンドンへ行くことになり、そこでの数々の揉め事が繰り広げられます。第2幕では、トムがわずかに堕落し、ニックに影響を受けながら新しい生活が描かれます。第3幕ではトムの悲劇が描かれ、最終的には彼の心の闇が勝ち、命を賭けた勝負が展開されます。

編成

音楽の編成はモーツァルトを意識した二管編成で、弦楽器と共に演奏され、レチタティーヴォなども含まれています。演奏時間は約150分と、長編に仕上がっています。

ストラヴィンスキーは1947年12月、作曲を待ちきれず第3幕の一部を先に手がけていたことも知られています。初演は本来、イーゴリ・マルケヴィチが指揮予定でしたが、ライトナーが指揮を行うことになりました。本作はその後も多くの劇場で上演され、オペラ界に大きな影響を与え続けています。

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