フェルディナント・ライトナー

フェルディナント・ライトナー：20世紀を彩った名指揮者の生涯

フェルディナント・ライトナー（Ferdinand Leitner, 1912年3月4日 - 1996年6月3日）は、ドイツ出身の指揮者です。その卓越した音楽性と指導力で、20世紀のクラシック音楽界に大きな足跡を残しました。シュトゥットガルト歌劇場をはじめとする数々の主要な歌劇場やオーケストラで活躍し、モーツァルトやワーグナーといった巨匠の作品で特に高い評価を得ました。また、ベルナルト・ハイティンクなど、後世の音楽家たちを育成した教育者としても知られています。

生い立ちと音楽の道へ

1912年、ベルリンで生まれたライトナーは、幼い頃から音楽に囲まれた環境で育ちました。ベルリン音楽大学で作曲をフランツ・シュレーカーに、指揮法をユリウス・プリューヴァーに師事。さらにアルトゥル・シュナーベルにピアノを、カール・ムックに指揮を、ロベルト・カーンに作曲を学ぶなど、幅広い音楽教育を受けました。当初は伴奏ピアニストとして活動し、ヴァイオリニストのゲオルク・クーレンカンプ、チェリストのルートヴィヒ・ヘルシャー、歌手のハンス・ホッターなど著名な演奏家たちと共演しました。その後、1935年からグラインドボーン音楽祭でフリッツ・ブッシュのアシスタントを務め、1943年にはベルリンのノレンドルフ・プラッツ劇場の指揮者となり、本格的な指揮者としてのキャリアをスタートさせました。

指揮者としての飛躍

第二次世界大戦後、ライトナーはハンブルク国立歌劇場、ミュンヘン国立歌劇場での指揮を経て、1947年にシュトゥットガルト歌劇場のオペラ監督に就任。1950年には音楽監督となり、1969年までの約20年間、シュトゥットガルト歌劇場の黄金時代を築き上げました。この間、マルタ・メードル、ヴォルフガング・ヴィントガッセン、アストリッド・ヴァルナイ、レオニー・リザネク、ジョージ・ロンドン、フリッツ・ヴンダーリヒなどの名歌手たちがライトナーの指揮で歌い、ヴィーラント・ワーグナーやギュンター・レンネルトといった演出家たちが活躍しました。シュトゥットガルト歌劇場はヨーロッパ各地で公演を行い、1959年にはカール・オルフの歌劇『オイディプス王』を、1968年には同じくオルフの歌劇『プロメテウス』を初演するなど、その活動は国際的にも高く評価されました。

また、ライトナーはアンスバッハ・バッハ週間音楽監督、チューリヒ歌劇場の首席指揮者、ハーグ・レジデンティ管弦楽団の首席指揮者、トリノ・イタリア放送交響楽団の首席客演指揮者などを歴任。1956年からはテアトロ・コロンで常任指揮者を務め、世界各地で客演活動を行いました。ウィーン国立歌劇場、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、NHK交響楽団など、著名なオーケストラと共演し、ヘルマン・プライ、ディートリヒ・フィッシャー＝ディースカウ、ビルギット・ニルソンなどの名歌手たちとも共演しました。1964年には初来日、1969年にはアメリカデビュー、1985年にはザルツブルク音楽祭にも登場し、その存在は世界的なものとなりました。300近いレコーディングを残しており、その演奏は現在でも多くのファンを魅了しています。

教育者としての側面

ライトナーは教育者としても優れていました。オランダ放送協会が主催する指揮者セミナーでは、パウル・ファン・ケンペンやウィレム・ヴァン・オッテルロー、エルネスト・アンセルメらと共に教鞭を執りました。その指導を受けた指揮者の一人が、ベルナルト・ハイティンクです。ライトナーは、リハーサルで団員の演奏が気に入らない際には、口元に手を当てて笑ったと伝えられていますが、その姿は「すごく格好が良くておしゃれだった」と、当時のオーケストラ団員に語られています。

レコーディングと音楽史における位置

ライトナーは300近くのレコーディングを行い、ドイツ・グラモフォンやアルヒーフなどのレーベルに録音を遺しました。第二次世界大戦後、リヒャルト・シュトラウスやハンス・プフィッツナーなど、作曲家としても活躍していた19世紀生まれの指揮者を失ったドイツ・グラモフォンは、新たなスター指揮者を求めていました。その中で、ライトナーはフェレンツ・フリッチャイ、イーゴリ・マルケヴィチ、オトマール・スウィトナー、フリッツ・レーマン、フリッツ・リーガーらと共に、20世紀生まれの中堅指揮者として売り出されました。

カルロス・クライバーとの確執

ライトナーとカルロス・クライバーの間には、確執があったことが知られています。クライバーがシュトゥットガルト歌劇場に客演していた際、両者は音楽的な解釈の違いなどから対立しました。例えば、クライバーは歌手の練習不足についてライトナーに直接苦情を言い、ライトナーはクライバーが『ルル』を指揮することに難色を示しました。また、エディンバラ音楽祭でクライバーが急病で降板した際、ライトナーが代役を拒否したことで、両者の関係はさらに悪化しました。この事件は新聞でも大きく報道され、ライトナーは批判を浴びました。この確執が、ライトナーが1969年にシュトゥットガルトを去る原因の一つになったと噂されています。

後世への影響と評価

ライトナーの指導は、ベルナルト・ハイティンクの才能を開花させました。ライトナーは、ハイティンクがオランダ放送協会主催の指揮セミナーで『オベロン』序曲を指揮した際に、その才能を見抜き、他の審査員の反対を押し切って受講させたのです。また、シカゴ・リリック・オペラでは、ライトナーの体調不良がきっかけとなり、コンサートマスターのピンカス・スタインバーグが代理で指揮をしたことが、スタインバーグの指揮デビューにつながりました。さらに、指揮者のヘルムート・リリングは、ライトナーの指揮で『マタイ受難曲』を初めて聴き、深い感銘を受けたと述べています。

ライトナーは、典型的なドイツのカペルマイスターと評され、モーツァルト、ワーグナー、ブルックナー、リヒャルト・シュトラウスといった作曲家の作品で高い評価を得ました。また、協奏曲や合唱曲の演奏でも優れており、同時代の作品であるカール・オルフやカール・アマデウス・ハルトマンの作品の演奏も評価されました。ライトナーが指揮したフェルッチョ・ブゾーニの『ファウスト博士』のレコードを聴いたイーゴリ・ストラヴィンスキーは「ブゾーニがこれほど優れた作曲家だったとは思いもしなかった」と述べたというエピソードも残っています。

オーボエ奏者の茂木大輔は、ライトナーの指揮でモーツァルトの『交響曲第40番』を演奏した際、その指揮を端正なものだったと述べています。音楽評論家の諸石幸生は、ライトナーの演奏を「深く確実な音楽性をもち、作品それ自体に語らせる味わい深い演奏」と評しています。また、宇野功芳は、ライトナーが指揮したNHK交響楽団の定期公演を聴き、「偉大なドイツの伝統を伝える指揮者」と評しました。

1996年6月3日、ライトナーはチューリッヒ近郊のフォルヒで亡くなりましたが、彼の音楽は今もなお、多くの人々に愛され続けています。

顕彰歴

1978年：チューリヒ市よりハンス・ネーゲリ名誉メダルを授与
1980年：オランダのユリアナ女王からオランジュ・ナッサウ勲章を贈呈

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