斉藤丑松

斉藤丑松：海軍軍楽隊のエースから音楽教育者へ

斉藤丑松（さいとう うしまつ、旧姓鹿倉（しかくら））は、1912年12月24日に茨城県猿島郡新郷村（現在の古河市）で生まれました。彼は日本の作曲家、そしてホルン奏者として知られています。

海軍軍楽隊での活躍

1929年、斉藤は海軍軍楽兵として横須賀海兵団に入団し、アルトホルンを専攻しました。1931年には練習艦隊の一員として地中海方面へ派遣され、その優れた成績から1932年には東京音楽学校に練習生として派遣されました。1935年に処女作「空軍の威力」を発表して以来、帝国海軍軍楽隊のエースとして活躍。彼の独特な旋律は「鹿倉節」と呼ばれ、軍楽隊関係者から高く評価されました。しかし、当時の著作権の制約から、作品は「○○軍楽隊作曲・編曲」と表記され、作曲者名が知られるようになったのは戦後になってからでした。

1937年には、ジョージ6世戴冠記念観艦式に派遣される重巡洋艦「足柄」の軍楽隊員として選抜されました。1939年に養子縁組により斉藤姓に改姓。1941年には軍楽兵曹長に昇進し、上海の支那方面艦隊軍楽隊に派遣された時期を除き、東京で作曲・編曲活動を続けました。終戦時は少尉として、海軍軍楽隊東京分遣隊に所属していました。

戦後の活動

戦後、斉藤は吹奏楽の表舞台に立つことはほとんどありませんでしたが、その一方で「アイリス音楽院」の発表会で使用する曲などの編曲を数多く行いました。1976年には行進曲「海国日本」を作曲したほかは、個人教授に専念。大田区久が原で音楽教室「アイリス音楽院」を開き、近隣に複数の教室を持つ音楽教室へと発展させました。

平成に入ってからは病床に伏すことが多くなりましたが、「あの頃の響き」をはじめとする接続曲や歌曲を制作するなど、精力的な活動を続けました。1994年1月には、前年8月に作詞・作曲した歌曲「あこがれの海」をトリオに入れた行進曲「あこがれの海」を完成させ、これが彼の最後の吹奏楽曲となりました。

同年4月に高知県土佐清水市に転地療養しましたが、行進曲「海」などの作品スケッチを残したまま、同年6月4日に白血病により81歳で亡くなりました。

主な作品

斉藤丑松は生涯にわたり、数多くの作品を作曲しました。その中でも特筆すべきは、以下の作品群です。

行進曲

行進曲「空軍の威力」（1935年）
行進曲「国民の意気」（1935年）
行進曲「海の戦士」（1935年）
行進曲「怒涛を蹴って」（1935年）
意想的行進曲「翔けよ勇士」（1936年）
行進曲「足柄」（1937年）
行進曲「上海陸戦隊」（1937年）
行進曲「愛国」（1937年）
行進曲「横須賀海兵団」（1938年）
行進曲「海軍記念日」（1938年）
行進曲「南郷少佐」（1938年）
行進曲「軍艦旗」（1938年）
大行進曲「建国」（1938年、後に「民族の誇り」に改作）
行進曲「護れ海原」（1939年）
行進曲「海南島」（1939年）
行進曲「太平洋」（1939年）
大行進曲「伸び行く電波」（1939年）
大行進曲「大日本」（1939年）
行進曲「帝都の護り」（1939年）
行進曲「銃後の日本大丈夫」（1939年）
行進曲「紀元二千六百年」（1939年）
行進曲「国民進軍歌」（1940年）
大行進曲「皇紀二千六百年」（1940年）
行進曲「埼玉青年」（1940年）
行進曲「海を渡る荒鷲」（1940年）
行進曲「大政翼賛」（1941年）
行進曲「東京無線青年学校」（1941年）
行進曲「海の進軍」（1941年）
行進曲「揚子江」（1942年、1994年に復元）
大行進曲「無敵の艨艟」（1944年）
大行進曲「祖国の護り」（1944年）
行進曲「国民義勇隊」（1944年）
大行進曲「民族の誇り」（1970年代）
行進曲「海国日本」（1976年）
行進曲「あこがれの海」（1994年）
行進曲「海」（1994年、遺作）

歌曲・軍歌

海の歌（1940年）
漢口攻略の歌（1938年）
広東攻略の歌（1938年）
東亜の黎明（1938年）
海軍記念日を称ふる歌
少年航空兵の歌
空ゆかば

意想曲・接続曲

意想曲「潜水艦」
意想曲「東亜の黎明」（1938年）
意想曲「風雲の上海」（1936年）
接続曲「興国日本」（1939年）
接続曲「あの頃の響き」（1992年）

編曲

斉藤は、自身の作品だけでなく、他者の作品の編曲も数多く手掛けました。以下はその一部です。

「銃後の日本大丈夫」
「噫、南郷少佐」
「忘れられぬぞ連雲港」
「海南島上陸の歌」
「軍艦旗の歌」
「如何に狂風」
「躍進海軍の歌」
「潜水艦の華（成瀬兵曹の歌）」
「東京無線青年学校校歌」
「太平洋行進曲」
「横浜海軍航空隊隊歌」
「紀元二千六百年頌歌」

これらの作品は、彼の音楽的才能と、時代背景を反映した貴重な遺産と言えるでしょう。生涯で76作品を作曲し、140作品の編曲を行ったとされています。

エピソード

斉藤の生涯には、数々の興味深いエピソードがあります。

行進曲「愛国」を巡る事件： 行進曲「愛国」の作曲を巡り、陸軍の作曲家との間で競争が行われました。斉藤は、自身の作品が選ばれたものの、陸軍将校から往復ビンタを食らうという事件がありました。
大行進曲「大日本」の作曲： 大行進曲「大日本」の作曲時には、皇居前で1ヶ月も楽想を練っていたという伝説があります。
最も愛した自作： 斉藤は生前、行進曲「護れ海原」が最も好きな自作の行進曲だと語っていました。
最後の作品： 死去する前年の1993年11月、歌曲「あこがれの海」を完成させた後、知人から行進曲を望まれ、翌年1月に最後の吹奏楽曲となる行進曲「あこがれの海」を完成させました。

これらのエピソードは、彼の音楽への情熱と、人間性を物語るものです。

まとめ

斉藤丑松は、海軍軍楽隊のエースとして、数々の行進曲を作曲し、戦後は音楽教室を開いて後進の育成に尽力しました。彼の作品は、日本の吹奏楽界において重要な位置を占めています。彼の情熱と才能は、後世に受け継がれていくことでしょう。

参考文献

谷村政次郎「斉藤丑松」『軍楽隊とともに歩んだ･･･日本の吹奏楽III斉藤丑松作品集・ライナーノーツ』
高橋誠一郎「日本吹奏楽指導者協会 吹奏楽紀要」
谷村政次郎「行進曲『軍艦』百年の航跡」
針尾玄三「海軍軍楽隊 花も嵐も･･････」
* チャンネルNippon「吹奏楽への足跡 ②」

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