古賀精里

古賀精里：佐賀藩を支えた儒学者とその時代

古賀精里（こがせいり、1750年-1817年）は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した著名な儒学者です。佐賀藩士の家に生まれ、幼い頃から優れた才能を示しました。名は弥助、字は淳風、号は訥斎から精里と改めました。

精里の生涯は、学問への飽くなき探究心と藩への献身、そして時代の変革期における揺るぎない信念によって彩られています。若き日に藩主の執事として仕えたものの、病のため辞職。その後、藩主の許しを得て、京都や大坂へ遊学の旅に出ます。福井小車や西依成斎といった陽明学者に師事した後、尾藤二洲や頼春水らと出会い、朱子学へと傾倒していきました。

帰藩後は、佐賀藩の藩校・弘道館の設立に大きく貢献。教授として、学規や学則を整備し、藩の教育制度の基礎を築き上げました。弘道館においては、闇斎朱子学に基づいた教育を行い、当時の主流であった徂徠学とは一線を画しました。その教育理念は、藩の士風向上に多大なる影響を与えたと言われています。

精里の学問への貢献は、藩内にとどまりませんでした。幕府からの三度にわたる招聘を辞退した後、1796年にはついに江戸へ。昌平黌の儒官に就任し、柴野栗山、尾藤二洲らとともに「寛政の三博士」の一人としてその名声を不動のものとしました。この「寛政の三博士」は、老中・松平定信による寛政の改革において重要な役割を果たしたとされています。

精里は、羽倉簡堂、草場佩川、斎藤拙堂など多くの優秀な門弟を育成しました。その教育方法は厳格で知られ、頼山陽は精里の性格を「厳密寡黙」と評しています。私生活では、妻の死後、再婚せず生涯を独身で送りました。

学問面では、漢詩に秀でた才能を発揮し、その作品は観念的なものとして高く評価されています。代表的な著作に『十事解』があり、これは1789年に支藩である蓮池藩のために、政治と民政のあり方を説いたものです。その他にも『四書集釈』『近思録集説』『精里全書』『大学章句纂釈』『中庸章句纂釈』など、数多くの著作を残しています。

精里の系譜は古く、その先祖は漢の霊帝まで遡るとの伝承もあります。子孫は甲斐国から筑後国へ移り住み、龍造寺氏、そして鍋島氏に仕えた歴史を持っています。

1817年、68歳で生涯を閉じました。1915年には従四位を追贈されています。古賀精里は、藩校の設立、人材育成、そして数々の著作を通して、江戸時代の儒学の発展に大きく貢献した人物として、今なお記憶されています。その生涯は、学問への情熱と時代への責任感、そして揺るぎない信念を示す、輝かしいものでした。

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