新世界 (映画)

ジャン＝リュック・ゴダール監督による短編映画『新世界』(Il nuovo mondo)は、1963年公開のイタリア・フランス合作オムニバス映画『ロゴパグ』(Ro.Go.Pa.G.)の一篇として制作されました。『ロゴパグ』は、ロベルト・ロッセリーニ、ゴダール、ピエル・パオロ・パゾリーニ、ウーゴ・グレゴレッティという、ヌーヴェルヴァーグを代表する4人の監督による合作で、それぞれの頭文字からタイトルが付けられています。

ゴダールが監督した『新世界』は、フランス・パリを舞台に、核爆発後の世界を描いています。主人公の男は、恋人を含む周囲の人々の奇妙な行動や、機械の異常な挙動に気づき始めます。彼はその変化をノートに克明に記録していきますが、その記録は、気づかないうちに世界を覆いつくしていた核爆発による終末の記録となっていくのです。

パリ上空12万メートルで発生した核爆発は、静かに地上に影響を及ぼし、人々の行動や社会システムに異常をきたしていきます。主人公は、その異常事態を客観的に記録することで、世界が崩壊していく様を描き出していきます。この作品は、ゴダール初期の代表作として知られ、彼の独特な映像表現や、社会への鋭い視点を垣間見ることができる重要な作品となっています。

主演を務めたのは、スイス出身の俳優ジャン＝マルク・ボリと、カナダ出身の女優アレクサンドラ・スチュワルトです。ボリは、本作の撮影当時28歳。アンドレ・カイヤット監督の『黒い書類』でデビュー後、ロジェ・ヴァディム監督の『戦士の休息』などに出演していました。スチュワルトは、20歳の時にピエール・カスト監督の『美しい年齢』でデビューし、『唇によだれ』、『黒衣の花嫁』など、ヌーヴェルヴァーグの様々な作品に出演していました。

さらに、クレジットされていませんが、ミシェル・ドラーユ、ジャン＝アンドレ・フィエスキ、アンドレ・S・ラバルトといった俳優たちも出演しています。ドラーユは本作がほぼ映画デビュー作で、後にリュック・ムレやトリュフォー、ジャック・リヴェットなどの作品に出演。フィエスキは本作が映画初出演で、後に『カイエ・デュ・シネマ』誌出身の映画作家として監督デビューを果たしました。ラバルトも『カイエ・デュ・シネマ』出身の映画作家で、ゴダールとは長年の盟友関係にあり、その後もゴダール作品に多数出演しています。

『新世界』は、ゴダール監督の他の作品と同様に、既存の映画制作手法にとらわれず、実験的な手法を取り入れています。映像表現、物語の展開、そして俳優たちの演技など、彼の独特なスタイルが色濃く反映されています。この作品は、ゴダールの初期作品を知る上で非常に重要な作品であるとともに、ヌーヴェルヴァーグ運動の熱気と実験性を伝える、貴重な記録となっています。核戦争という現実的な脅威を背景に、ゴダールは人間の存在や社会の崩壊を独特の視点で表現し、観客に問いかける作品となっています。また、俳優陣の演技や、映像表現における独自のスタイルも評価が高いです。 ゴダール作品の魅力に触れたい、ヌーヴェルヴァーグ時代の映画作品に興味のある方にとって、『新世界』は必見の作品と言えるでしょう。

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