新井大輝

新井 大輝（あらい ひろき）は、1993年8月2日生まれ、群馬県出身のプロフェッショナル・ラリードライバー。卓越したドライビングスキルと不屈の精神を持ち合わせ、日本のモータースポーツ界を牽引する存在の一人である。特に、国内最高峰シリーズである全日本ラリー選手権（JRC）においては、最も競争の激しいJN1クラスで2020年と2024年の二度にわたりシリーズチャンピオンに輝いた。彼の父は、プロダクションカー世界ラリー選手権（PWRC）で二度の世界タイトルを獲得したレジェンド、新井敏弘である。

経歴

幼少期からラリーとの出会い

ラリー一家に生まれながらも、新井大輝の少年時代は意外にもサッカーに捧げられた。父が海外で活躍していた小学生の頃に滞在したイギリスでサッカーに魅了され、帰国後も高校まで選手として活躍。本庄東高校時代には県大会ベスト16に進出するなど、高い運動能力を示した。卒業後、東京電機大学工学部機械工学科に進学し、自動車に関する専門知識を深めたが、この時点でもラリーは「父の仕事」という認識に過ぎず、自身がドライバーとなることは考えていなかったという。自動車運転免許を取得したのは18歳と遅かったが、運転の楽しさに目覚め、特に軽トラックでの山道走行に熱中した。プロの道を決意する転機となったのは、友人の勧めによる地元群馬のラリー参加だった。父・敏弘は息子の挑戦に対し、「センスがあればすぐに分かる。ダメならやめればいい」と現実的なアドバイスで後押しした。

国内デビューと海外修行

父のチームのサポートを受けつつ、アルバイトで活動資金を捻出しながら、新井大輝は驚異的なスピードで成長を遂げる。免許取得から一年足らずの19歳で学生ラリーストとしてデビュー。2013年には、普通免許取得後間もないためJRCオープンクラスに参戦。国際格式のラリー北海道（APRC併催）では、スバルWRX STIを駆り初挑戦。SS1ではAPRCトップドライバーにも引けを取らないタイムを記録するも、惜しくも転倒リタイアを喫した。翌2014年にはJRC最高峰クラスJN6にスポット参戦。さらに2015年のラリー洞爺では、父・敏弘に続いて2位フィニッシュを果たし、史上初の親子ワンツーという快挙を達成した。

2015年、トヨタが主導する「TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジプログラム」の育成ドライバーに、勝田貴元と共に選ばれたことは、彼のキャリアにおける大きな転換点となった。ふたりはトヨタのWRC復帰プロジェクトを担うトミ・マキネン・レーシング（TMR）へ派遣され、WRC界の伝説的存在であるトミ・マキネンやミッコ・ヒルボネンといったトップドライバーから直接指導を受ける機会を得た。フィンランドを拠点に欧州各国の国内選手権を転戦。フォード・フィエスタR5などをドライブし、2016年にはWRC2クラスで念願のWRCデビューを飾る（ラリー・フィンランド）。2017年からは生活拠点をフィンランドに移し、WRC2やフィンランド国内選手権に本格参戦。ポルトガル国内イベントでの総合優勝なども経験するが、2018年末、トヨタが育成リソースを勝田一本に絞る決定を下したことにより、TGRプログラムから離れることとなる。

国内復帰と二度の王座

2019年、レカロの支援を受けながら国内活動を再開。JRC最高峰JN1クラスに復帰すると、初戦の久万高原で、ライバルを大きく引き離して総合優勝を飾る衝撃的な走りを見せた。ポイントリーダーだった父を猛追するも、最終戦の中止により惜しくも王座を逃した。しかし、その実力は誰もが認めるところとなり、翌2020年、新型コロナウイルスの影響で短縮されたシーズンながら、安定した速さを見せつけ全日本総合王者のタイトルを獲得。前年果たせなかった「父越え」を実現した。

順調に見えたキャリアに暗雲が立ち込めたのは2021年。WRCクロアチアへのスポット参戦中に激しくクラッシュし、脊椎を骨折する重傷を負った。一時は自力で立つこともままならず、引退も脳裏をよぎったというが、懸命なリハビリを経て奇跡的な回復を見せ、約3ヶ月後には実戦復帰を果たした。2022年からは国内活動を休止し、父の会社を退職。自らのチーム「Ahead Japan Racing Team（AJRT）」を立ち上げ、プジョー208ラリー4を導入し、資金難をクラウドファンディングなどで乗り越えながらラリージャパンに参戦。FF車ながら多数の強力な四輪駆動勢を凌駕する走りで、二輪駆動勢最上位、WRCのラリー4車両の中でも最高位となる総合15位、国内勢2番手という驚異的なリザルトを残した。2023年のJRCスポット参戦でも、雨の唐津でFF車ながら総合3位表彰台を獲得。ラリージャパンでは再び快走し、SSでは父を破るなど、総合10位、日本人最上位（勝田貴元除く）でフィニッシュ。21世紀にWRCクラスポイントを二輪駆動車で獲得したわずか3人目のドライバーとなる偉業を成し遂げた。

そして2024年、自己資金で中古のシュコダ・ファビアR5を購入し、再びJRC JN1クラスのトップ戦線へ復帰。資金やスペアパーツが限られる中でも、開幕戦2位という好スタートを切ると、第2戦唐津で優勝。牽引免許を取得し自らマシンを運ぶなど、徹底した倹約と努力を続けながら勝利を重ね、9月のラリー北海道で最終戦を待たずに自身二度目となる全日本王座を獲得した。同年のラリージャパンではWRC2クラスに6年ぶりに参戦。最新鋭のライバルマシンに対し苦戦を強いられるも、SSトップタイムを記録するなど意地を見せ、WRC2クラスで日本人最上位の3位表彰台、総合でも前年を上回る9位で完走を果たした。

人物・エピソード

私生活では2021年に結婚。目標とするドライバーは元WRC王者のマーカス・グロンホルムで、彼から受けた「気持ちが一番大事」という言葉を大切にしている。また、二郎系ラーメンをこよなく愛する一面も持つ。SNSでの情報発信にも積極的で、ドライビング技術やメカニズム知識に加え、ネットミームにも精通しており、苦境にあっても変わらない軽快な語り口が人気を集め、多くのフォロワーを持つ。2022年の豪雨で愛車が水没した際、その様子を投稿したツイートが大きな話題となり、テレビニュースで取り上げられる一幕もあった。

父の偉大な背中を追いながらも、自らの力で道を切り開き、数々の困難を乗り越えて日本のトップカテゴリーで再びチャンピオンを獲得した新井大輝。その挑戦的なスピリットと、ファンを惹きつける人間力で、今後のさらなる活躍が期待される。

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